「話したい事は全部で三つあります。まずは一つ目です。【所有物や人間関係の見直し】これから話したいと思います。皆さんの周りにも一々、つまらないことで口を挟んでくる者が必ず一人や二人いるはずです。どうでしょうか、皆さん。彼らの存在って迷惑ではありませんか? 私たちが目標に向かって邁進しているというのに、この人たちは後ろから足を引っ張ることしか考えていない。ああしろ、こうしろと事あるごとに口を出してきては、私たちを思うがままに操ろうとし、従わなければ攻撃的な姿勢すら見せてきます」
聴衆が静まり返っている。誰もが身に覚えがあることなのだろう。
「その人たちの声に耳を傾けてはいけません。彼らの発する言葉は雑音です」
教壇に立つ男は聴衆に向けて、力を込めて言葉を解き放った。会場にいる人たちが圧倒されているのが、画面越しにも伝わってくる。
男は、ゆっくりと聴衆を見回した。
「皆さんはストレスを必要以上に溜め込んでいらっしゃるようだ。こちらから見ていても、それが伝わってきます。そして、そのストレスは無用なものを購入するなどをして発散しているのではありませんか。気づいた時には 身の回りに使いもしない不要な物ばかりが転がっている。それはひょっとすると旦那さんや彼氏かもしれませんね」
聴衆がどっと笑い、会場が笑い声で包まれる。
「大事なことは、自分にとって必要な物だけを取り入れて、良質な物のみを身の回りに置くことです。この会場の壁に掲げられている絵画を見てください」
男が指し示した方向に聴衆が目を向けた。
「これらの絵は私たちに素晴らしいイメージを想起させてくれます。これが例えば、どこにでもあるような有り触れたものだったらどうでしょう。それを見ても何も感じないはずです。それどころか想像力を掻き乱すことにもなりかねません。もう一度言いますが、身近には良質な物だけを置いておけば良いのです。これは人でも同じことが言えます。つまらない人間と付き合う必要はありません。接していると、その人たちから多大な悪影響を受けることになる。接した時間だけ毒されて、成功が遠のくことになるでしょう」
男は肩を竦めた。
「絵画なんて贅沢と思われるかもしれません。以前の私もそう思っていました。しかし、良いですか、皆さん。世の中には大別すると二種類の人間が存在します。使う側の人間と、使われる側の人間の二種類です。あなたはどちら側の人間になりたいですか。使われる側の人間なんて冗談ではないでしょう。搾取されるだけの人生に何の面白みがあるというのでしょうか。この使われる人間というのは、脳でいうと動物の領域である大脳辺縁系、一般的には哺乳類脳と呼ばれている領域を主に使って生きています」
脳の画像が映し出された。脳の中央付近に色が付けられている。
「そして使う側の人間。これは人の上に立つ人間のことを指します。この人たちは主に大脳新皮質という部分を働かせて生きています」
今度は中央ではなく、それを包み込む外側の部分に色が付けられた。
「この大脳新皮質は人間たる所以の領域に当たります。原始的である哺乳類脳の外側に位置するのが、お分かりになるでしょうか。この部位を使って、『人間は』絵画や音楽などの芸術を嗜んでいるのです」
男は『人間は』という部分を強調して言った。
「どういうことかと申しますと、成功することができない、即ち貧乏な生活を余儀なくされている人たちというのは、ストレートに言うと極めて動物的な生活をしているということです。思い起こしてください。そのような人たちが身の回りにいると思います。それは親かもしれませんね。その人たちは芸術には興味も示していないはずです。そして長期的視野を持って勉学に励んだり、何かに投資することもない。目先の利益に飛びつくだけの即物的な人生を送っているはずです。そして、このタイプはギャンブル好きも多く、安ければ何でも欲しがり、不健康極まりないゴミ同然の食べ物ですら、お腹が膨れるまで食べ続ける。タバコを嗜み、アルコールの摂取も積極的に行う。部屋だって散らかったまま放置しているかもしれません。注意でもされようものなら、たちまち感情的になってキレてしまう。これらの行動は脳レベルで見た場合、非常に理に適ったことなのです」
聴衆の全ては得心がいったという顔をしている。