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白ふくろうのチャーム③

 追跡は楓月と市香が担当することになった。列車がホームに到着するたびに、改札口から人が溢れ出てくる。人波に呼応するかのように、それまで静かだった街が躍動し始めた。

 この中から、たった一人の女性を探し出さなければならない。大変な作業に思えるが、どの列車に乗って来るのかは、事前に宗一郎から聞かされて分かっている。「栗色の髪にクリーム色のポシェット。写真の子で間違いないよ」とのことだった。幸いなことに改札口は一つしかない。問題は香流甘の向かう先まで気づかれずに追跡できるかだ。

 楓月は駅前に立ち、まだ来るはずのない改札口を惚けたように眺めた。すると、肩をコツンと小突かれた。

「こんな所じゃ怪しまれるでしょ」

 市香に誘導されて、道を挟んだ向こう側に場所を移した。確かに改札口で待ち構えておくのは適切ではない。しかし、どうも腑に落ちない。おかしな宗教と言っても、本人が好きでやっているのだ。放っておけば良いのではないか。そこまで過激なところでもないだろうに。

 市香と楓月は談笑に耽っているカップルを装った。幾つかの列車をやり過ごした後、二人は改札口に意識を向けた。駅前の円柱時計の針が十一時十五分を指している。次の列車だ。

 改札口から、ぞろぞろと人が街へ流れ込んできた。

「来たよ」

 市香が注視した先に栗色の髪の女性がいる。

「あの人ですか? 写真の人とは違うような気がしますけど」

「何言ってんの。髪はヘアピンで留めてあって、あとはメガネを掛けているだけよ」

 まるで別人だ。市香がいなければ、見逃していたかもしれない。

「楓月くん、まだよ」

 追跡を開始しようとした楓月を市香が止めた。香流甘が遠ざかっていく。

「さあ行くよ」

 香流甘の死角になる位置に入ってから、ようやく動き出した。市香は過去に追跡したことでもあるのかと思えるほど慣れている。

「香流甘さんのお母さんって、随分と独りよがりでヒステリックな人みたいですよ。美由紀さんもその人と接する時は神経を使うって言っていました」

 アドバイスをしても、鉄壁のガードで跳ね返されてしまうらしい。自分の考えこそが絶対に正しいと思い込んでいるのだ。香流甘が母親から離れようとするのも無理はない。

 大通りを歩いていた香流甘が道を曲がり、住宅街へ入って行った。車が一台通れるかどうかの細い道が続いている。いつも歩いている道なのだろう。香流甘は今いる場所を確認することなく、軽やかな足取りで歩いている。僕らは、さらに香流甘から距離を取った。ひと気のない住宅街だ。不必要に近づくわけにはいかない。

 しばらく歩いていると、突然、香流甘の姿が見えなくなった。道を曲がったのだろうか。ここからでは、そこに道があるようには見えないが……。

「確か、この辺りだったはず」

 香流甘が姿を消した場所に細い横道があった。その先に小さな公園が見える。僕らは公園に足を踏み入れた。

「ここまで来たら大丈夫。ほら、楓月くんも座って」

 市香がブランコに腰かけるように促した。香流甘が遠ざかっていく。一体、どういうつもりなのだろう。楓月は訝しがりながらも、ブランコの座板に腰かけた。市香は足を地面から離して、前後に身体を揺らしている。

「ほら見て」

 市香が公園の入口へ視線を誘導した。ぞろぞろと女性たちが公園に入ってくる。

「みんな付けてるでしょ。白ふくろうのチャーム。香流甘さんも同じものをバッグに付けていたから、多分、みんな同じ場所に向かってる」

 目の前を通り過ぎていく女性たちのバッグに目を遣った。確かに白ふくろうの小物が取り付けられている。

 遠くに見える香流甘を背中越しに眺めた。背後からでは小物を確認することができない。市香は香流甘が改札口から出てきた時に確認したのだろうか。

 女性たちは白ふくろうの小物を揺らしながら公園を通り抜けて行き、そして教会へと入って行った。

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