プロローグ
「楓月くん、そろそろ動き出したらどうかね」
「僕がですか」
「そうだよ。それを君が探し出すんだ」
自信に満ち溢れた男を前に、楓月は困惑した。
「だが」
男はこちらを見据えて言った。
「君次第では、人生が暗転するかもしれないがね。世の中の多くの人たちは何も考えずに他人の道を歩んでいる。お節介かもしれないが、君には自分の道を歩んでもらいたいと思っているんだ。志半ばに倒れた君の父親もそう願っているはずだ。このまま何もせずに朽ちていくなんて出来やしないだろう? 願っているだけでは何も手に入らないんだよ」
こちらの様子を伺っていた女性が、ふと空を見上げた。
「わあ、すごい飛行機雲」
その声に反応して、僕らも空を見上げた。どこかのアーティストが感性の赴くままに筆を振り下したような一筋の白い雲が空を切り裂いている。
時間を忘れて空を眺めた。緩やかな時間の中、雲だけが形を変えていく。