「フィリーナ。良くも私の前にまた現れたな」
「テオフィール様……私、もう大丈夫です。あなたに愛されているんですもの」
「ああ、優しいな。それにひきかえ、フィリーナは」
ヒロインと攻略対象者のはずなのに、セリフはまるで悪役のようだ。
久しぶりに会った彼らを見ても、驚くほど感情が動かないことにほっとした。彼らはまだ私がテオフィールに未練があるように感じているようだけれど。
テオフィールは私のことを憎しみに満ちた顔でにらみつけ、ヒロインは彼に守られるように腕の中に納まった。けなげにも私のことを慈愛に満ちた微笑みで見ている。
実際は、見せつけてるのだろうが。
でも、全然もう関係ない。
「フィリーナがなんだって?」
「フィリーナ大丈夫? これが悪いやつ? ほろぼす?」
「レイナルド! それにリカランド。大丈夫よ。……それこそ私にはあなたたちが居るんだから」
「フィリーナ、なんという言い方を……」
私の皮肉が伝わったようで、ヒロインとテオフィールはそろって不快そうな顔になった。
……これぐらい言っても、いいじゃない。
私が彼らを捻くれた気持ちで見ていると、私の後ろから冷えた声が聞こえた。
「なぜヴァライサごときの王族が私の妻にそんな無礼な事を言っているんだ? さらには呼び捨てにするだなんて」
「なっ」
「ヴァライサが私の国の従属国になった事を知らないのか? それとも、宗主国であるグラッサーグの王族の顔もわからないのか?」
いつも優しい口調のレイナルドがにこにことしながら全く不快だと器用に伝えると、テオフィールは渋々といったように膝をついた。
もう名前も思い出せないヒロインの彼女は、そんなテオフィールの事を呆然と見ている。そして、はっとしたように私のことをにらんだ。
「妻の教育が足りないようだな」
「……イリス」
テオフィールが名前を呼ぶと、ヒロインは悔しそうな顔で膝をついた。
「レイナルド王、……申し訳、ありません」
じっと跪く二人を見た後、レイナルドは不安そうな顔で私のことを見つめた。
「フィリーナ、大丈夫か?」
「ええ。もう大丈夫です。さっきの言葉は嘘じゃないの。二人が居るから、私はもうこんなことで傷つく事ないわ」
「それは良かった」
心底ほっとしたように、レイナルドが微笑んで私は嬉しくなって彼の手を握った。隣でリカランドも私の手を握ってくれた。両手に花だ。
「今ヴァライサ王にもこの国の今後について話してきたばかりだが、後でまたヴァライサ王に話をしよう。……この国の者たちは、立場の違いが分かっていないようだと」
「申し訳ありません! お許しください!」
テオフィールが青い顔で頭を下げ、ヒロインは下を向き肩を震わせていた。
私はレイナルドの裾を引っ張った。
「……レイナルド」
「私の妻に感謝するんだな」
「かんしゃしろー」
「ありがとう、リカランドも。……さぁ、観光に行きましょう!」
「ああ、君のおすすめの場所、育った場所、楽しみだ」
「かぞくりょこうだぞー」
私が二人に呼びかけると、彼らは嬉しそうに笑った。