「どの面を下げてきた。出て行け。私はお前を許したつもりはない」
「俺はここに入るのを見た。オリビア、いるんだろ。お前は俺の相棒のオリビアだろ」
「オリビア? オリビアはお前が殺しただろ。私の前に二度とその顔を見せるな」
「待ってくれ。お前が俺を嫌いでもいい。だからオリビアと合わせてくれ」
「どうしてそこまでする?」
「それは……」
「答えられないなら帰れ」
「俺とオリビアの問題だ。あんたには邪魔をする必要はないだろう」
「悪いな、若造。私は今酷く機嫌が悪いんだ。その頭に風穴を開けてもいい。それが嫌なら速攻立ち去れ」
扉を閉めて鍵をかけ奴が立ち去ったのを確認してから踵を返す。
「父さん、それは八つ当たりっていうのよ」
視線の先では亡き妻に似た面影が呆れたようにため息を吐いていた。
「フローレンス。お前はなにも知らないから言えるんだ」
件の婚約者との顔合わせを済ませた折に訪ねてきたのがジルレネットだったのだから殺さなかっただけましだろう。
「私は蚊帳の外だって言うの?」
小言から逃げるように横を通り過ぎコンロのわきに淹れおいていたカップに手を伸ばす。
「オリビアは私にとっても家族同然なのよ」
「……お前は、彼女が本当にオリビアだと思ったのか?」
「……父さんはちがうというの?」
「魂だけが乗り移っただなんてオカルトじみたことが本当にあるとでもいうのか?」
フローレンスはあれがオリビアだと信じたのだろうか。
おそらくそれに達するだけの理由があったのだと推察はできる。
「お前は街を出ろ」
「父さん?」
「……ここからは俺たちの仕事だ。お前は帰って式の段取りでもしていろ」
「でもせっかく顔を見にきたのよ? 少しくらいこっちで過ごしてもいいじゃない」
「……フローレンス。俺の家族はもうお前だけだ。こちらから連絡するまでこっちには帰ってくるな。あーあれだ、あいつが、えー……スティーヴンだったか。あいつが買い出しから戻ってきたらお前たちはさっさと帰れ。いいな」
「……ええ」
「ふたりで仲良く暮らせ」
「……でもね、父さん。父さんの家族はあと二人増える予定よ」
先程までの強張りは解け微笑んだ娘が腹部を撫でその意味を理解し込み上がった感情に目頭を押さえていると、奴の、スティーヴンの腑抜けた声が聞こえふつふつと腹の底から沸き立ち燃えるように感情を塗り替えていく。
「……やっぱりあいつは殺すっ」