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第24話

 チャーリーミルズから荷物が届いた。

 いくつかの資料が同封されていた。

 キャロラインジョーンズは直属の上司だった。彼女が不正をしていたこと。オリビアが不正をしていないことが記されていた。

 ああ、やはり彼女は不正をしていなかった。

 あの時、俺が殺されなければ彼女はまだ生きていた。

 現実を突きつけられたようだった。

「ジルぅ」

 甘く強請る声が気持ち悪いと思った。

「……どうしたの?」

「べつに。まだ寝てろ」

 女が眠りに落ちて息を吐く。

 纏わりついたにおいが好きにじゃなかった。

 ミラアナベル。

 それが隣に住む女の名前だと知ったのは越してきた初日に顔を合わせた時だった。

 やたらと距離が近いそれに疑いを持っていた。

「ジルさんってかっこいいですね。うわ、筋肉すごーい。なにかやってるんですか」

 印象としてはうるさくてしつこい女で、事あるごとに絡んできては距離を詰めようとしてくるのだが、邪気のない声と表情。これがジョーンズの手先ではなかったら悪くは思わなかったと思う。

 タイミングがいやにあう。

 これは合わせなければ無理だろう。

 それからミラアナベルという女について調べ上げた。

 まず、ミラアナベルという人物はいない。

 レイチェルラヴィリー。

 彼女は局に出入りする人物でジョーンズの部下のひとりだということがわかった。つまりいつもの女共のひとりだ。

 予想通りミラアナベルが近づいて来てからは部屋に来る女が遠のいた。

 そんなに俺を潰したいのかそれともこの問題を潰したいのか。どちらにしても辟易した。

 だが真相を掴めならなんだってやってやる。

 距離を詰めれば向こうもそれなりの反応を示すと思った。そう思ったはずだったのだが、それが、ある時からちがうことに気づいた。

 それはまるでちがう人間のように思えた。

「なにやってんの。まだ帰らねえの?」

 あの女がいた。

 答えるように口を開けた女を引き寄せて顔を寄せた。髪は柔らかく目を丸くして戸惑いを浮かべた女に引っかかりつつも続けていると舌に痛みが広がって非難の声をあげる。

「それはこっちのセリフよ。いきなり人の唇を奪うなんてどういう了見?」

 予想もしてなかった反応にたたらを踏んで踏みとどまる。明らかに不快な顔をしている。それが頭に残った。

「あーなんだお前ちがう女か」

 部屋にいた女とちがったということにして、どうでもいいように女をあしらったら後をついてきてはいたがどうにも反応がないので煙草を買って帰るかとすれちがった時、どこかでかいだような香りがして「あんた、さっきの人?」引き止めていた。

「は?」

「においが同じだ」

「もしかして隣に住んでる?」

「……そうですけど」

 やっぱりどこかちがう。どこがだ。

「悪いけど少し付き合ってくんない?」

「嫌です」

「悪いけど」

「嫌です」

「お隣のよしみで」

「私とあなたの関係はそれだけです」

 掴まれた腕を振り払って歩き出した背に声を投げかける。

「いいの? あんたのベットの下に隠してるものを誰かに話しても」

 決意した心を捨てて男のにやりと笑った顔と対峙する。

「あなたどこでそれを」一気に表情を変えた女に「さあ。なんとなく」と答えると先程の剣幕が嘘のように力もと無くシャツ口から手を離していた。

「……あんた名前は?」

「あなたには教えたくない」

「ふぅん」

 まるで彼女から俺に対する記憶だけが消えたように感じた。

「まあじっくり知っていけばいいか」

「じゃあ帰るぞ」

 彼女の手を取り来た道を戻る。

 後ろで女がなにか言っていたが構わず引いて

「鍵」家の前へと戻って開けるように促す。

「は?」

「開けろ」

「嫌よ。あなたの家はあっちでしょ」

 隣の青色の扉を指す。

「俺はあんたの部屋がいい」

「私は嫌。知りもしない人を家にあげるなんて」

 知りもしない、ねぇ。

「もう俺ら知り合いだろ。それに俺はあんたをもっと知りたい」

「私は結構です」

 きつく言い放って腕をはたき落とした隙に家の中に入り込んで鍵を閉めた彼女はこちらに見向きさえしなかった。

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