あの一件から駆り出されることが増えた。
それに比例してオリビアと関わる頻度は減っていた。
予算削減の煽りから今月から署のコーヒーはどちらかと言えばお金を出して自販機のコーヒーを買った方がいいほどに不味いものらしく、例にもれずジルも自販機の前に来ていた。硬貨を入れるも目当てのものが売り切れていたので仕方なく来た道を戻り休憩室へと足を向ける。
コーヒー然り署内編成からか休憩室も今では廊下の隅の方に追いやられあまり人気はない。
連日の現場での連隊により眠気覚ましに求めたコーヒーよりも「だから! 私はやらないって言ってるでしょ!」聞こえた声に目が覚めて咄嗟に近くの物陰に身を潜めた。
「オリビア、待ってちょうだい」
「私降りるわ。もう殺したくないもの」
彼女にしてはめずらしく声を荒げていることに自然と耳が言葉を拾っていく。
「ええ、わかってるわ」
オリビアの声はわかるがもうひとりは誰だ。
あまり聞き馴染みのない声に身を乗り出してみるも、死角になって姿までは見えない。
「でも私はあなたを信頼しているのよ。あなただって今自分がどういう立ち位置にいるかわかっていないわけではないでしょう」
「ですが、」
「あなたの意見はきいていないの。これは決定事項よ。いいわね」
彼女が反論する前に踵を返したのか足音が遠く消えていった。
どうしたものかと考えていると休憩室から電子音が鳴った。
どうやらオリビアのものらしい。
今更ながらではあったが立ち聞きは良くないな。
離れようとした足を、
「ええ、私も愛しているわ、ロジャー。後で会いましょう」
彼女の声が引き止めた。
そのねだるような甘い声に喉が鳴った。
自身に決して向けられることのない猫撫で声。
まるで足が床に貼りついたように動けない。
人の気配が消えてもなおその場から動けなかった。
「おーい、ジル?」
「ああ、なんだ、ルーカスか」
「なんだはないだろう」
「それで? 俺になにか用か?」
「ああ、君に話が……ん?君、もしかして休憩室のコーヒーを飲むつもりかい?」
「ああ、まあ」
「僕のをあげるよ。噂じゃ毒でも入ってるんじゃないかって話だからね」
差し出されたカップホルダーに入った中からカップを受け取る。
「そうそう、頼まれてた件だけど、わかったよ」
それはあの日見た姿だっあ。
「ロジャースウィーニー」
スウィーニー。
その名は誰もが聞いたことがあるが決して正体を明かさず、表に出てくることはない。
それがどうして判明したのか。
「君の相棒、本当に白か?」
「どういう意味だ」
ファイルを手渡される。
「こっちでも調べられるだけ調べてみたが」
中には金髪の女と唇を重ねる写真や車に乗り込む写真が挟まれていた。
「君、相棒だろう? 気をつけた方がいいかもしれないよ」