火がパチパチと爆ぜる音が沈んでいた意識を掬い鮮明になる聴覚とともに瞼を上げた。
耳鳴りが聴覚を詰まらせて幕で覆われた中で咳き込んだ視界の先「ジル。よくやったわね」わずかに残った意識によって捉えたのはオリビアの声だった。
「救護を最優先で頼んだわよ」
数人が視界の端で散れる足音がして彼女も行ってしまいそうで彼女の腕を掴んでいた。
「……ジル?」
吐き出した声がこもり口元を覆っていた酸素吸入器をずらし耳を寄せた彼女に言葉を繋げる。
「どうして俺を避けてるんですか」
「……べつに避けてなんてないわよ」
微妙な間を取り繕うように貼り付けた作り笑いが気に食わない。
「御託はいい」
俺がどれだけあなたに触れたかったか。
「ジル?」
「顔を見せてください」
ここで触れたら、もう、はぐらかす理由がない。
それでも伸ばした手が彼女の頬に触れ──。
「オリビア」
空間を割くように名前を呼んだのはバーンズだった。
生きていたことにどこかほっとして考えを振り払う。
「盛大にやってくれたわね。始末書で済めばいいわね」
もうこちらなど関係ないとばかりに背を向けて言葉を交わしている。
「捕まえたんだ文句はねえだろ」
「あんたが動くたびに私が尻拭いをしてるの忘れたの?」
「そんなのお互い様だろ。今回だってお前が」
「バーンズ」
静かに嗜めるオリビアの声で空気がぴりついた。まるでそれは俺には聞かせたくないように思えて唐突に周囲を覆っていた喧騒が消えたような気さえした。
「だああぁ面倒くせえな。大体新人の教育を怠るな。おかげで死ぬところだっただろう」
場を治めるように放ったバーンズのその言葉は聞き捨てならずジルは声を上げた。
「それはあんたが後先考えず突っ走るからで俺は応援が来るまで待ってくれと言ったじゃないですか」
「あの時信用できそうな奴がお前だっただけでお前があそこまで使えないと思わなかったんだ」
「はぁ?あんたがなにも言わなかったからじゃないですか」
「で? 証拠ごと建物を半壊したのはどっち?」
「こいつが」
「あんたが」
お互いに視線までかち合って嫌そうに眉間の皺を深めた。
「あら、ずいぶん打ち解けたみたいね」いつの間に打ち解けたの?
「ちがう」
「こいつと一緒にするな」
お互いに睨み合ってから話題をすり替えられたような気がして阿呆らしくなってどちらともなく視線を逸らした。