「ジルレネットはいるか?」
顔を上げると自身の名前を呼んだ男と視線があった。
「一緒に来い」
「なんで俺が」
「今日はお前と組むことになった。ただそれだけだ」
「第一俺には相棒が」向けた先に彼女の姿はなかった。
「許可は取ってある。お前以前重大犯罪課にいただろ。力を貸して欲しい」
「嫌です」
以前の職場には良い思い出がない。あまり関わりたくない。
「あいつがお前の力を買ってるんだ。協力しろ」
訝しげな視線を向けるが「お前が来ないならオリビアに頼むが。それでもいいのか」とため息混じりに言われれば同行する以外の選択肢は消えた。
「お前、局を裏切ってるか?」
局はそれぞれの階数によって部署がわかれていたが、重大犯罪課に寄ることなくエレベーターで一階に降りるとそのまま車に乗り込んだわけだが、説明もなく従った俺に対しての第一声が裏切りとはあんまりなのではないだろうか。
そんな話なら俺はこの件から降りる。とため息を吐いた。
「待て。話は最後まで聞け。お前が内調と取引してるのもそれ関係だろ」
「……なんでそれを」
「あんなところを彷徨いてたらわかる。いいから座れ」
渋々外に出していた足を車内へと戻し扉を閉めた。
「俺は、誰か裏切り者がいると思ってる」
「なにか確証があるんですか」
「まず聞くが、君は局を裏切っているかいないか答えろ」
「なにを言っ」「いいからさっさと答えろ。ジルレネット捜査官」
なにを馬鹿馬鹿しいことを訊くんだとは思ったが強張った表情に無意識に喉元が動いた。
「……俺は裏切っていない」
「……それが本心か?」
「ああ」
「合格だ」
「……は?」
「お前が今座っている椅子だが、それは嘘発見器だ。嘘をついていたらブザーがなる。
「まさか俺を疑ったのか?」
「ああ。俺は用心深いんでな」
疑い深いの間違いだろう。
「で、本題だが。裏切り者を炙り出す。協力してくれるか」
「どうしてそれを俺が引き受けないといけないんですか。他にもいるでしょう」
「少なくともお前は信用できると判断された。俺はそれを信じる」
「あなたは馬鹿ですか。もし俺が裏切っていたらどうするつもりだったんですか」
「ああ、それは気づかなかったな」
それはまるで最初からその答えを用意していなかったようで不本意ながら胸の奥が熱くなった。