「オリビア、お前ずいぶん若い相棒連れてるって?」
「うるさい」
なんとなく気まずくて避けるように1日を過ごしていたらたまたま自身について話しているところに出会して重心を後ろへと傾けて壁に張り付いた。
「ジルレネット。だっけ。知ってる? あいつ」
「少なくとも彼は、あんたみたいに回りくどいことはしないし、相棒のことは私が一番わかってるわ」
「だけどあいつ」
「あんたは黙って引っ込んでなさい。しつこいのよ」
「な、俺は親切心で」
「しつこい男は、嫌われますよ」
オリビアと対峙した男から自分と同じにおいがして、つい、口を出した。
こちらに気づいた男は意味を理解したのか顔を真っ赤にして「あ、あああああとで後悔しても知らないからな」捨て台詞を吐いてから逃げていった。
「なにがしたかったのかしら」
「さあ。でもまた来たら俺が追い払います」
「ありがとう、助かったわ」
少なくともあの男を追い払ったことは間違いではないらしくてほっとした。
「俺、背高くてなにも言わなくても威圧感があるみたいで怖がられるので」
「なにそれ。可愛いのに」
「可愛いって、俺男ですけど」
「私にとっては弟みたいで可愛いのよ」
頭を撫でられてふわりと彼女からいい香りがして喉がきゅっと締まった。
「あーもー髪かき回すのやめろ」
「あらいいじゃない減るもんじゃないし」
「セクハラで訴えられますよ」
「あんたにしかしないから大丈夫よ」
俺だけ。その言葉が嬉しいと思った。
「そういえば昨日送ってくれたんだって?」
「あーまあはい」
曖昧に視線を逸らすと
「ありがとう助かったわ」
後ろめたさと少しの安堵感。
「俺だからよかったですけど少しは考えてください」
「あーはいはい」
ああよかった。彼女はおぼえていない。まだ彼女の隣にいれる。
「それよりあんた今日はどこにいたのよ」
「普通に仕事してましたけど」
「なにしれっと嘘ついてるのよ。私がどれだけ探したと」
「俺を探したんですか。先輩小さいんで気付かなかったです」
「あんた、自分以外の人間全員小さいと思ってない?」
「ええまあ」
「私はこれでも背が高い方に入るのよ」
「ああそうですか。で、俺を探してた理由はなんですか?」
「え」
「理由があって俺を探してたんですよね」
「……あー、あんたが見つからないから忘れちゃったわよ」
「そうですか」
思わぬ反応が返ってきて内心戸惑った。
一瞬、都合の良いように捉えてしまってから考えを振り払う。
彼女とはわかれ自身の雑務を終えた頃、視界の端に触り心地の良い金髪の女がコートにマフラーを着ける姿が目に入って声をかけてみたもののどこか場ちがいのような気がして「オリビア、よかったら今日」「なに?なんか言った」口をついた言葉を引っ込める。
「今日、帰るのはやいんですね」
「別件よ」
「じゃあ私帰るから。あんたもあんたではやく帰んなさいよ」
「はい」
報告書をまとめて社外にでると外はすっかり暗くなっていた。
人混みの中に一際背の高い女がいた。
辺りを気にして路地に入っていく後ろ姿にあの人はなにをやっているんだとかけようとした声を止めた。身を翻して近くの車の中へと入る姿をよく見れば街灯が当たった手には血がついていた。それを隠すようにコートのポケットへと手を突っ込むと何事もなかったように肩を抱く男と唇を重ねてから人混みに紛れて消えていった。
それから少しだけ待って路地を覗く。
壁に背中を預けた男が胸元から血を流していた。既に息はなく、銃痕のまわりの皮膚が焼け焦げていた。銃声はしなかったはずだが。
なにかないか服の中を探る。
財布や身分証や携帯電話など身元に繋がりそうなものはなかったが服の内側に厚みを感じて引き剥がすと布地の裏にメモリカードが縫い付けてあるのを見つけた。
部屋に戻りパソコンで読み込んでいく。
写真とそれは不正の証拠だった。
口を手で覆いつつもそんなわけはないと画面を下へ下へと読み進めていく。
悪いとは思ったが銀行口座の動きを見ると大金が動いていた。同じ役職では賄えるはずのない額だった。信じたくなかった。
彼女がこんなことをするはずがない。
頭ではそうわかっているはずなのに手に握る汗がちがうと警告する。喉が鳴った。
これは、黒だ。