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第14話 僧院での生活

 こうして楼夷亘羅るいこうらの手に引かれ、目的の庭園へ向かう吒枳たき。ほどなくして二人の前に見えてきたのは、広々とした空気の澄んだ草原。見渡せば沢山の樹々なども生い茂り、緑あふれる光景に目を楽しませ魅了する。


 そして、庭園の中を静かに流れる川の音色。そこから聴こえてくる優しい響きは、疲れた心と体を癒してくれた。そんな美しい自然に触れながら、待ち合わせの場所にたどり着いた二人。ところが、やはり伊舎那いざなはまだ到着していない様子。


「ほら、だから言ったじゃないですか、まだ来ていないって」

「いいんだって、俺はゆっくりと伊舎那いざなを待つのが好きなんだからさ」


 恥ずかしげもなく話す楼夷亘羅るいこうらの言葉。そこから窺えたのは、伊舎那いざなのことを愛おしく想うような素振り。しかしながら、時折よだれを垂らす行為は、人ではなく弁当のことを気にしているのであろう。どちらにせよ、嬉しそうに喜ぶ姿は、あるじを待つ忠実な犬のよう。


 そんな長閑のどかなひと時を過ごしていると――。


「――あら? やっぱり、もう来ていたのね」

「そうなんですよ、ゆっくりでいいって言ったのに。僕のいうことなんて、聞こうとしないんですから」


 いつも状況は同じと分かっていたはず。なのに、理解なく繰り返す姿に、困り果てた面持ちで内容を話す吒枳たき


「ふふっ。楼夷るいは食いしん坊だからね」

「そんな事いいから、早く食べようぜ!」


 風呂敷から弁当箱を取り出す姿を、待ち遠しく見つめる楼夷亘羅るいこうら。暫く待たされたせいもあり、口元からは一滴のよだれが垂れ落ちる。


「――もう、汚いわね。そんなに慌てなくてもいいから、少し落ち着いてちょうだい」

「そうですよ。それだと、まるで犬じゃないですか。まあ、待ては出来てるみたいですけど」


「そうよ、楼夷るい。その集中力をね、少しは勉強に活かせないの」

「分かってるって」


「ほんとに分かっているの?」

「それよりも早く早く」


 並べられた弁当から伝わるこうばしい香り。じっと様子を窺っていた楼夷亘羅るいこうらではあるも、あまりのいい匂いに我慢しきれず思わず手が伸びてしまう。


「――あっ、それは吒枳たきの分よ。楼夷るいのはそっちにあるでしょ。ったく、見ていないと人の分まで食べちゃうんだから」

「いいんですよ、伊舎那いざなさん。楼夷亘羅るいこうらにはね、いつも助けて貰ってますから。それに、僕は小食なんで大丈夫です。というよりも、なんか図々しくて申し訳ありません」


「んっ、なにが?」

「いえね、僕達の弁当まで作ってもらって、本当にいいのかと」


「あぁ、弁当のことね、それなら気にしなくてもいいわよ。私はね、二人が美味しそうに食べてくれるだけで幸せなの、だから遠慮は不要よ」

「ですが……」


 僧院での生活は厳しく、身の回りのことは全て自身で行う事が規則。ゆえに、食材は提供されるも、調理は各自で行わなければならない。そのためか、料理が苦手な楼夷亘羅るいこうらは生で食べることが多く、よくお腹を壊していた。


 そうでなくても食生活が不規則な楼夷亘羅るいこうら吒枳たき。二人の健康を心配した伊舎那いざなは、栄養管理を行うも伝えるだけでは状況は改善されず。それならばと、昼食は弁当を持ち寄り、夕食は指導を兼ねて料理を手伝っていたという…………。

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