最近流行しているゲームがあるらしい。
その名も『異世界転移ゲーム』。多分、よくあるRPG系のゲームか何かなのだろう。
「大学も夏休みに入ったし、やってみるかな」
うちの大学の夏休みは非常に長い。ましてや二年生なんて、一番遊べる時期だと言っても過言ではない。
僕は試しにそのアプリをダウンロードして遊んでみることにした。
インストールが終わったら、ようこそ!というキラキラした文字が表示されることになる。
「はじめまして、あなたは8591人目の勇者です……思ったほどDLされてないのかな?あ、名前入力がある……」
部屋のベッドに寝っ転がりながら、ぽちぽちとプロフィールを入力していく僕。
最後に名前を入れてください、と出た。
僕はたくさんゲームをやっているが、いつも入れる名前は適当だ。別に主人公に愛着があるわけではないし、名前はいつも『あああ』とかにしてしまっている。
だから今回もそうしようとしたのだが。
「あれ?あああ、使われてる?」
どうやら、他プレイヤーと被る名前は駄目、という仕様らしい。僕は試しに一文字増やして『ああああ』にしてみた。しかしこれも駄目。さらに一文字増やして『あああああ』にしてみても駄目。最終的には限度文字数まで『あ』を入れてみたが、全部アウトということになってしまった。
どうやら、名前入力がめんどくさいタイプのプレイヤーは僕だけではないらしい。
「……いっそ“あいうえお”とかの方が入るかなあ」
それから一時間後。
どうにか僕が名前入力に成功した、その時だった。
「え」
スマホの中から溢れる、紫色の光。僕の意識は、その光の中に飲み込まれていったのだった。
***
ああ、女神様。
ああ、女神様。
なんで異世界転移をアプリにしちゃったんですか。しかも異世界転移ゲームなんて、ややこしいタイトルつけたんですか。
まさかゲームじゃなくて、本当に異世界転移するアプリだなんて、全然想像していなかったんですけど!
「ようこそいらっしゃいました」
金髪の女神様がにこにこと微笑んでいる。最大の問題は。
「はじめまして。『あいうえおかきくけこがぎぐげごさしすせそざじずぜぞたちつてとだぢづでどっなにぬねのはひふへほばびぶべぼぱぴぷぺぽまみむめもやゆよらりるれろわをん』さん。あなたは2968591人目の勇者です。どうかこの世界を救ってください!」
「あああああああああああああああああ」
なんで名前入力で全力を尽くしてしまったんだ自分!
まさかこれからの冒険、そんな名前でやらなくちゃいけないというのか!
俺は頭を抱えて、その場で蹲ったのだった。