「まずはここからじゃなくて、ずっとそのままの間違いじゃねえのか?」
「そうそう、その足でどうやって魔物狩りするんだよ」
後ろを振り向くと、兵士のような恰好をした二人組の男性がわたしたちを見て笑っていた。随分と挑発的なことを言うものだ。
「貴方たち、ロックは――」
残念な人たちだ。
ロックのことを何も知らないのだろう。わたしも経験したことだけど、無知ほど怖いものは無い。
言われっ放しでは良くない。
わたしは男たちに抗議の声を上げようと一歩前に出る。しかし、
「全く、その通りだな」
「……ロック?」
わたしを制したのは、ロック本人だった。
「行くぞ」
「で、……でも!」
それ以上は何も言わず、ロックは依頼書を手に受付へと移動する。
仕方がないのでわたしもそのあとを追いかける。受付では、草抜きの依頼を無事に受注することができた。
これがわたしにとって初めての依頼だ。……だというのに、この怒りをどうすればいいのか分からなくてむしゃくしゃする。
「なんなの、アレ? 冒険者の風上にも置けないわね」
やっぱり納得がいかずに声を出す。
ロックもロックだ。どうして言い返そうとしなかったのか。すると、
「あんな奴らはどこにでもいる。相手をするだけ時間の無駄だ」
そう言ってのけた。
あの手の人たちは、適当にやり過ごすのが一番効率いいらしい。
長く冒険者業を続けてきたロックにとって、さっきのようないざこざは日常茶飯事だったってことだろうか。
でもこのままだと、ギルドであの男たちと顔を合わせる度に挑発されるし、舐められたままになる。それはダメだと反論しようとして……ロックの呟きが耳に届いた。
「……但し、例外もあるがな」
その直後、さっきの男たちがわたしたちの許へと近づいてくるのが視界の端に映った。
にやにやと笑いながら歩み寄り、すぐ傍で立ち止まる。そして一言、今度はわたしに向けて口を開く。
「よく見りゃ、可愛いじゃねえか? お嬢ちゃんどうだい? そんな奴と一緒に居ないでオレたちの仲間にならねえか?」
「そうそう、その方が効率よく稼げるぜ?」
嫌悪から、物凄く深めのため息が口から出る。
これも『溺愛』の効果なのだろう。全く以ってお節介なスキルだと思った。
男たちの目を見て、わたしは反問する。
「わたしが、貴方たちの仲間に?」
「おう。危険な目には合わせねえぜ? 楽させてやっからよ」
「最高の冒険者ライフを送らせてやるぜ」
乗り気だと思われたのか、二人の勧誘に精が出る。
だからこそ、わたしは満面に笑みを浮かべたまま、返事をしてあげることにした。
「残念だけどお断りよ。貴方たちの顔、わたしの好みじゃないのよね」
二人の誘いをキッパリと断った。
途端に、男たちの顔色が変わる。手痛く振られたことで顔は真っ赤に染まり、今にも拳を振り上げそうな雰囲気だ。
ただ、それでもわたしには『溺愛』がある。
影響下にある対象者をどれほど怒らせたとしても、わたしへの被害は無いだろう。
そう思っていた。すると、
「おい、てめえ! 今すぐこの女から手を引け! じゃねえとオレたちが痛い目見せてやるぞ!」
わたし個人への報復はなかったけど、間接的な被害が生まれてしまった。
男たちはわたしに対するはずの怒りの感情を、ロックへと向けたのだ。
「おらっ、聞いてんのか! 何とか言えよ義足野郎が! ――っ、あ?」
男たちの片割れが、ロックの肩を掴んで無理矢理引っ張った。けど、
「ぐえっ」
気付いたとき、その男は床に転がって情けない声を上げていた。
「どうした? 床で寝るのがお前の趣味なのか?」
そしてその姿を見下ろしながら、ロックは淡々と言い捨てた。