ギルドで冒険者証を手に入れたので、次は魔石の換金をしてもらうことになった。
ロックに連れられて、わたしは魔石換金所へと移動する。
王国から共和国までの一週間、貯めに貯めた魔物の魔石を、ここで全て吐き出す。
重かった大鞄も、これで軽くなるはずだ。といっても、わたしが持っていたわけではないので何とも言えないけど、ロックの負担が減るだけでもよかったと思う。
「ほほぉ、これは物凄い量ですね! これは少し色を付けましょうかね。期待してもらっていいですよ!」
「そうしてもらえると助かる」
換金所の女性職員は、籠一杯に魔石を詰め込むと、途端にブツブツと独り言を口にし始める。いったい何をしているのだろう。
「――はい、確認完了です! こちら全て合わせまして、銀貨二十一枚でいかがでしょう!」
「問題ない」
「では、こちらに署名をおねがいいたしますー」
差し出された用紙にすらすらと名前を記入すると、ロックは職員から銀貨を受け取った。
換金所から少し離れて、わたしはすぐに訊ねる。
「ねえ、さっきの職員の方って、どうやって査定したのかしら」
「魔法だ。呪文を呟いていたのを見ただろ」
「あ……あれって呪文だったの?」
傍から見ると、魔石に向かって喋りかける怪しい人としか思えなかったけど、まさか魔法で魔石を査定していたとは……。
「世の中には色んな魔法があるのね……」
わたしもいずれ魔法を使えるようになりたいものだと思った。
「ところで、査定額には満足したの?」
「ああ。王都とは雲泥の差だな」
ニッと口元を緩ませて、ロックが言う。
王都だと、今回の査定額の半分にも満たないらしい。つまり、銀貨十枚以下ということになる。
「王都って、あり得ないほど暴利を貪っていたのね……」
「違いない。……にしても、多いな」
「え?」
「俺の予想では、十五枚かそこらに収まると思っていた」
予想よりも五枚以上多い……。
ひょっとしたら、わたしの『溺愛』の効果でオマケしてくれた可能性がある。
わたしの『溺愛』は異性同性関係なく影響を与えるから、女性職員にも有効だ。少し色を付けると言っていたのも、それが原因かもしれない。
「まあ、いいか。懐も温かくなったから、宿を取って飯を食うぞ」
「うん!」
今日はもうクタクタだから、ご飯を食べたらすぐに寝てしまうかも。
と思っていたら、ロックが一つ提案してくる。
「まだ時間もあるな……せっかくだから、何か一つ依頼を受けてみるか?」
「依頼を……? それって、もしかして冒険者の?」
「それ以外に何がある」
言われて、わたしの目は一気に開いた。
新米冒険者生活一日目、早速依頼を引き受けることになりそうだ。
わたしはロックと一緒に依頼書の貼られた掲示板の前へと移動する。そこには大勢の冒険者の姿があった。
「依頼書がたくさん……これ、多すぎるわね」
巨大な掲示板の端から端まで、更には一番上の方まで、びっしりと貼られてある。
でも、どれを受ければいいのか判断が付かない。
「ロック、どの依頼を受けるつもり?」
「そうだな……」
掲示板に貼られた依頼書を一つずつ眺めていって、ロックが目ぼしいのを見つける。それを剥がしてわたしに見せてくれた。
「まずはここから始めろ。魔物狩りは、そのあとだ」
ロックが手にした依頼書には「冒険者ギルド周辺の草抜き」と書かれてあった。
これが今のわたしの実力に見合った依頼ということなのだろう。
「草抜きね? よし、頑張ろうかしら!」
魔物退治ではないけど、これも立派な依頼だ。
遂に冒険者としての第一歩を踏み出すことになる。この依頼を無事に達成することができれば、きっと自信に繋がるはずだ。
「まずはここから、だってよ。ははは」
そのときだった。
すぐ横から、笑い声が聞こえてきたのは……。