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【41】『溺愛』再び

「凄い人の数……」


 フォルトナ共和国に到着し、わたしはまず人の多さに圧倒されていた。

 あらかじめ聞かされてはいたし、その大きさを遠目にも確認していた。それでも実際に足を踏み入れてみると、王都との違いに驚かざるを得ない。


「止まったらぶつかるぞ」

「あ、うん」


 道の真ん中で呆気に取られていると、ロックに声をかけられる。

 確かにこのままだと人の波に呑み込まれて倒れてしまいそうだ。気を付けよう。


「まずはギルドに行くのよね?」

「ああ。冒険者証の申請と魔石の換金だ」


 それが終わったら、次は宿の確保に向かう。

 角兎の干し肉を食べたから、お腹の具合は悪くない。ご飯まで我慢することができそうだ。


「……あ、いい匂い」


 と思ったのも束の間。

 再び、わたしの足が止まる。

 匂いの許を辿って目を動かすと、屋台が並んである。


「……はぁ。どれが食べたいんだ」

「え? ……いいの? ギルドに行くのが先でしょう?」

「何度も立ち止まられたら溜まらんからな。但し、一つだけだぞ」

「! 分かったわ!」


 ロックのお許しを得て、わたしは屋台の傍へと駆け寄る。

 何の肉か分からないけど、串焼きが売っていた。これが美味しそうな匂いの素のようだ。


「おじ様、二つくださる?」

「あいよ! 二本で銅貨二枚もらうぜ!」


 屋台の店主に言われて、わたしはロックに目を向ける。

 既に財布から硬貨を取り出していたのだろう。ささっと支払いを済ませてしまう。


 一本ずつ、ロックとわたしは屋台の前で立ったまま食べてみる。


「……んん~、美味しい!」


 これは美味しい。

 ロックが作ってくれる魔物料理ももちろん美味しかったけど、そのどれもが野性味に溢れていた。必要最低限の調味料しか手元に持たないからだ。

 この串焼きも見た目は似たようなものだけど、調味料がよく聞いている。だから味の幅があるのかもしれない。


「ねえ、ロック? わたしが持つから、次に外に出るときは、もっとたくさん調味料を持っていきましょう」

「却下だ。結局俺が運ぶことになりそうだからな」

「もうっ」


 即、否定されてしまう。

 ロックの腕があれば、もっと美味しい魔物料理を作ることができるのに、勿体ない。


「いやー、お嬢ちゃん! 可愛いし美味しいって言ってくれるから、もう一本オマケしちゃうぜ!」

「あっ、……ありがとう、おじ様。嬉しいわ」


 一本食べ終えると、屋台の店主がもう一本オマケしてくれた。

 そして思い出す。


 この店主の優しさも『溺愛』の効果かもしれないと。


 申し訳なく思いつつも店主から受け取り、頬張る。

 うん、やっぱり美味しい。


「なんならもう一本サービスしちゃうぜ! ほら、どうだいお嬢ちゃん!」

「っ、いえいえ! もうこれで十分ですから!」


 さすがにこれ以上はいただけない。

 店主にも悪いし、他のお客さんの目もある。


 ここ数日間、ロックと行動を共にしていたから忘れていたけど、『溺愛』はわたし自身をダメにするスキルだ。しっかりと気を引き締め直す必要がある。


「……? ロック、黙っちゃってどうかしたの?」


 ふと、視線を感じて振り向くと、ロックがわたしをじっと見ていた。

 気になって話しかけてみると、ロックは「なんでもない」と返事をして、黙々と串焼きを食べ続けていた。

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