僕が捕まってから、いったい何日が過ぎただろうか。
よく覚えていないけど、体感だと大体二十日ぐらいか。
ところで質問だ。
誰でもいいから教えて欲しい。
この僕がここに居る意味を。
どうして、僕は牢屋の中に居るんだ?
どうして、僕は反乱を起こそうとしたんだ?
どうして、僕はあれほどまでに……。
「メル・メロールに執着していたんだ……?」
訳が分からない。
お願いだから誰か教えてくれ。
「……っ!?」
遠くから足音が聞こえる。
誰かが牢の階段を下りる音だ。いったい誰がこんなところに……。
「……兄さん?」
「エリック、我が愚弟よ……」
姿を現したのは、マルス兄さんだった。
相変わらず、僕のことを下に見ている。
「僕に何か用かい」
何故、ここに来たのか。
それは兄さんの顔を見ればすぐに理解できる。
きっと、僕と同じように戸惑っているのだろう。
「エリック、貴様……このオレに何か魔法をかけたか」
「魔法を? よく分からないけど、それってどんな魔法なんだい?」
「知らぬ振りを通しても無駄だ。あの女がかかわっている以上、貴様が何かしたことは明白なのだからな」
「だから何の話をしているのさ。きみにとって愚弟の僕に分かるように説明しなよ」
「だから! あの女を……メル・メロールを! このオレが何故、好きになってしまったのかと訊ねているのだ!」
ああ、やっぱり。
どうやら兄さんも僕と同じ症状に侵されていたらしい。
「……貴様、まさか」
僕の顔を見て、ようやく兄さんも悟ったようだ。
「なるほど……そういうことだったのか」
勘づいたのだろう。
信じたくはないけど、兄弟仲良く同じ症状なのだから間違いではない。
「このオレを……モルドーラン王国の第一王子であるマルス・モルドーランに恥を掻かせた罪は重いぞ!」
怒りに満ちた表情で、兄さんが彼女の名を口にする。
「メル・メロール……あの女を捕まえる。そしてこの手で息の根を止めてやる!」
精々頑張ってくれ。
僕は牢の中から応援することにしよう。
メルに対する想いを筆頭に、地位も名誉も何もかも失ったエリックは、ただぼんやりとマルスの姿を両の瞳に映し出すのであった。