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【40】牢屋での会話

 メルとロックの二人がフォルトナ共和国入りを目前にした頃、王国は未だに混乱状態の最中にあった。


 反乱を企てた第二王子エリック・モルドーランは、その身柄を拘束されて牢屋送りとなった。エリック派で生き残った面々も同じく。


 今回、両派閥に大勢の死傷者が出た。

 しかしそれでも大局は初めから明らかで、結果的にはマルス派の大勝利という形で幕を閉じることになった。


 だがしかし、それから一週間が経とうというのに、未だにメルの姿はどこにもない。

 誰もがメルを探したが、雲を掴むような感覚に陥っていた。


 その日、マルスは牢屋へと足を伸ばした。

 その目的は、ただ一つ。エリックの尋問だ。


「……気分はどうだ」

「最悪の気分さ。クソ野郎が僕の視界に映り込んだからね」

「ふん、愚弟の分際で」


 顔を合わせた途端、この有様だ。

 今にもまた殺し合いを始めそうな二人の様子に、監守も冷や汗が流れる。


 しかしマルスは、エリックの姿を見下ろしながら鼻で笑うと、要件を口にする。


「メルはどこだ。答えろ」

「僕が知りたいね」

「貴様が隠したのだろう! それ以外にメルがオレの傍を離れる理由などない!」

「自惚れも程々にしておきなよ。メルが本当に愛していたのは、この僕なんだからね」

「それはオレの台詞だ! この愚弟め!」


 唾を吐くと、エリックの顔に当たった。だが、怒りを露わにするどころか、エリックは牢屋の奥へと歩いて距離を取る。


「……いや、待てよ」


 ふと、エリックは思い出す。

 そう言えば、あれは何だったのか。


 メルと愚兄の婚約発表をぶち壊しに向かう前、エリックの許にメルが姿を現した。

 激励に来たと言っていたが、メルを見たのはあれが最後だ。


 まさか、あれはマルスから逃げるために王都の外へ出ていたのだろうか。

 そして最後に一目、大好きな元婚約者に会いたいと思ったのかもしれない。エリックはそう考えた。


 だとすれば、メルはもう、王都にはいない。

 エリックは、ここにいる意味がないと理解した。


「愚兄よ、今すぐにここから僕を出せ」

「は? 誰が貴様の戯言に耳を貸すか」

「いいから出せ! 僕にはメルを救い出す義務がある! それを邪魔するつもりか!」

「……間抜けが。貴様は今後一生その中で暮らすのだ」


 再度、マルスは唾を吐き捨てる。

 すると今度こそエリックが激怒する。


 けれどもマルスは、エリックの相手をすることなく、牢屋をあとにするのだった。


 それから更に、十日以上が過ぎた頃。

 二人は目を覚ました。

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