メルとロックの二人がフォルトナ共和国入りを目前にした頃、王国は未だに混乱状態の最中にあった。
反乱を企てた第二王子エリック・モルドーランは、その身柄を拘束されて牢屋送りとなった。エリック派で生き残った面々も同じく。
今回、両派閥に大勢の死傷者が出た。
しかしそれでも大局は初めから明らかで、結果的にはマルス派の大勝利という形で幕を閉じることになった。
だがしかし、それから一週間が経とうというのに、未だにメルの姿はどこにもない。
誰もがメルを探したが、雲を掴むような感覚に陥っていた。
その日、マルスは牢屋へと足を伸ばした。
その目的は、ただ一つ。エリックの尋問だ。
「……気分はどうだ」
「最悪の気分さ。クソ野郎が僕の視界に映り込んだからね」
「ふん、愚弟の分際で」
顔を合わせた途端、この有様だ。
今にもまた殺し合いを始めそうな二人の様子に、監守も冷や汗が流れる。
しかしマルスは、エリックの姿を見下ろしながら鼻で笑うと、要件を口にする。
「メルはどこだ。答えろ」
「僕が知りたいね」
「貴様が隠したのだろう! それ以外にメルがオレの傍を離れる理由などない!」
「自惚れも程々にしておきなよ。メルが本当に愛していたのは、この僕なんだからね」
「それはオレの台詞だ! この愚弟め!」
唾を吐くと、エリックの顔に当たった。だが、怒りを露わにするどころか、エリックは牢屋の奥へと歩いて距離を取る。
「……いや、待てよ」
ふと、エリックは思い出す。
そう言えば、あれは何だったのか。
メルと愚兄の婚約発表をぶち壊しに向かう前、エリックの許にメルが姿を現した。
激励に来たと言っていたが、メルを見たのはあれが最後だ。
まさか、あれはマルスから逃げるために王都の外へ出ていたのだろうか。
そして最後に一目、大好きな元婚約者に会いたいと思ったのかもしれない。エリックはそう考えた。
だとすれば、メルはもう、王都にはいない。
エリックは、ここにいる意味がないと理解した。
「愚兄よ、今すぐにここから僕を出せ」
「は? 誰が貴様の戯言に耳を貸すか」
「いいから出せ! 僕にはメルを救い出す義務がある! それを邪魔するつもりか!」
「……間抜けが。貴様は今後一生その中で暮らすのだ」
再度、マルスは唾を吐き捨てる。
すると今度こそエリックが激怒する。
けれどもマルスは、エリックの相手をすることなく、牢屋をあとにするのだった。
それから更に、十日以上が過ぎた頃。
二人は目を覚ました。