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【38】一夜明け

 瞼の裏が明るい。野宿から目が覚めた。


「……うーん」


 眠る前は辺り一面真っ暗だった森の中に、木漏れ日が差し込んでいる。

 空気も気持ちよく、清々しい朝だ。


「ロック……?」


 欠伸を一つ。

 それからロックの姿を探す。


 丁度、少し離れたところから良い香りが漂ってくる。振り向くと、ロックを見付けた。先に起きて朝食を作ってくれていたらしい。


「目覚めはどうだ」

「んー、野宿は初めてだったし、不安がないわけじゃなかったけど……不思議と熟睡することができたわ」


 ただ疲れていただけではない。

 恐らくは、ロックが傍に居てくれるという安心感があったからだろう。


「野宿も案外いいものね」

「何日も続けば嫌になる。俺はベッドで寝る方がいい」

「むぅ」


 せっかく気分良く目覚めたのに、ロックが水を差してくる。

 でもまあ確かに、ロックは寝袋も使わずに一夜を過ごしたわけだから、ベッドが恋しくなるのも理解できる。一日でも早くフォルトナ共和国に着くといいけど。


「水を汲んである。飯を食う前に支度を済ませておけ」

「ん。ありがとう」


 顔を洗い、身支度を整える。

 昨日眠る前に外した眼鏡を手に取り、迷わずかけた。

 王都を抜け出す際の変装用だけど、外套と一緒にロックが好意で貸してくれたものだから、どうせなら身に着けておきたかった。すると、


「おい、いつまでかけるつもりだ? もう必要ないだろ」


 眼鏡をかけるわたしに視線を向け、指摘してくる。


「これ? 気に入ったのよ」

「外しておけ。森の中では視界が狭まって邪魔になるだけだ」


 ロックの言うことはもっともだ。わたしは渋々ながらも外した。

 でも、フォルトナ共和国に着いたら、またかけてみよう。そのときは文句ないはずだから。


「今日の朝ご飯は……」


 なんだろう。ロックに訊ねてみる。

 森狼の焼肉は美味しかったけど、何食も続くとさすがに飽きてしまう。森の中で贅沢なことを考える自分は、まだまだ冒険者としての心得が身に付いてないようだ。


「安心しろ」


 すると、ロックがそう言って鍋の蓋を取る。

 中を見てみると、森狼の肉とは異なるものが入っていた。


「角兎だ」

「え? 角兎とは戦っていないはずよね?」

「夜中に近づいてきた奴らだ。丁度いいから仕留めておいた」


 わたしが熟睡している間に、そんなことがあったのか。

 ロックが傍に居なかったら、夢を見ながらそのまま死んでいたかもしれない。


「こいつは身が柔らかくて美味いぞ」

「ふーん」


 森狼とどちらの方が美味しいだろうか。興味がある。

 この調子だと、フォルトナ共和国に到着するまでに、魔物料理に嵌まってしまうかも。


 ふとそんなことを思い浮かべながら、わたしは肩を竦めて苦笑した。

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