瞼の裏が明るい。野宿から目が覚めた。
「……うーん」
眠る前は辺り一面真っ暗だった森の中に、木漏れ日が差し込んでいる。
空気も気持ちよく、清々しい朝だ。
「ロック……?」
欠伸を一つ。
それからロックの姿を探す。
丁度、少し離れたところから良い香りが漂ってくる。振り向くと、ロックを見付けた。先に起きて朝食を作ってくれていたらしい。
「目覚めはどうだ」
「んー、野宿は初めてだったし、不安がないわけじゃなかったけど……不思議と熟睡することができたわ」
ただ疲れていただけではない。
恐らくは、ロックが傍に居てくれるという安心感があったからだろう。
「野宿も案外いいものね」
「何日も続けば嫌になる。俺はベッドで寝る方がいい」
「むぅ」
せっかく気分良く目覚めたのに、ロックが水を差してくる。
でもまあ確かに、ロックは寝袋も使わずに一夜を過ごしたわけだから、ベッドが恋しくなるのも理解できる。一日でも早くフォルトナ共和国に着くといいけど。
「水を汲んである。飯を食う前に支度を済ませておけ」
「ん。ありがとう」
顔を洗い、身支度を整える。
昨日眠る前に外した眼鏡を手に取り、迷わずかけた。
王都を抜け出す際の変装用だけど、外套と一緒にロックが好意で貸してくれたものだから、どうせなら身に着けておきたかった。すると、
「おい、いつまでかけるつもりだ? もう必要ないだろ」
眼鏡をかけるわたしに視線を向け、指摘してくる。
「これ? 気に入ったのよ」
「外しておけ。森の中では視界が狭まって邪魔になるだけだ」
ロックの言うことはもっともだ。わたしは渋々ながらも外した。
でも、フォルトナ共和国に着いたら、またかけてみよう。そのときは文句ないはずだから。
「今日の朝ご飯は……」
なんだろう。ロックに訊ねてみる。
森狼の焼肉は美味しかったけど、何食も続くとさすがに飽きてしまう。森の中で贅沢なことを考える自分は、まだまだ冒険者としての心得が身に付いてないようだ。
「安心しろ」
すると、ロックがそう言って鍋の蓋を取る。
中を見てみると、森狼の肉とは異なるものが入っていた。
「角兎だ」
「え? 角兎とは戦っていないはずよね?」
「夜中に近づいてきた奴らだ。丁度いいから仕留めておいた」
わたしが熟睡している間に、そんなことがあったのか。
ロックが傍に居なかったら、夢を見ながらそのまま死んでいたかもしれない。
「こいつは身が柔らかくて美味いぞ」
「ふーん」
森狼とどちらの方が美味しいだろうか。興味がある。
この調子だと、フォルトナ共和国に到着するまでに、魔物料理に嵌まってしまうかも。
ふとそんなことを思い浮かべながら、わたしは肩を竦めて苦笑した。