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【37】野宿

 夜の森は暗い。

 木の影から今にも魔物が飛び出してきそうな雰囲気だ。


「うぅ、結構寒いのね」


 そして何より、肌寒かった。

 季節は春で、夜も暖かくなってきたはずだけど、森の中だと変わるのだろう。


「ロックから外套を貸してもらって助かったわ。ありがとう」


 王都を抜け出すときに変装用として借りたものが、思わぬところで活躍する。

 さすがに瓶底眼鏡で寒さ対策はできないけど、それはそれで楽しいから構わない。


 太陽はとっくに沈み、森の中で夜ご飯を食べている。

 夕食のメニューは森狼の焼肉だ。魔物の肉という先入観を失くしてしまえば、お店で出て来る料理と大差ないと思った。


「――ところで、フォルトナ共和国までは、あとどのぐらいかかりそう?」

「今日の感じだと、大体一週間前後は見ておいた方がいいな」

「一週間……結構かかるのね」


 どうやら目的地まではまだまだのようだ。

 ということは、避けては通ることのできない問題が出てくる。


「野宿……森の中で……」


 トイレ問題に関しては、既に洗礼を受けている。

 魔物の気配が無い場所で、なるべく遠くに離れてもらった上で……。


 でも、森の中にベッドは置いていないし、いつ何時魔物が襲ってくるかも分からない状態で眠らなくてはならない。


 予想はしていたけど、初の野宿に若干不安を感じてしまう。


 森狼の焼肉を食べ終えたあと、すぐに出発するのかと思った。けど、ロックは動かない。

 夜の森の中を進むのは危険なので、移動は明日の朝以降だと言われた。


「見張りは俺がする」

「寝ないつもり?」

「スキルの副作用でな、寝ながらでも気配が分かるようになったんだよ」


 自嘲気味にロックが笑う。『心眼』の副作用、恐るべし……。


 せっかくだからロックとたくさん話をしたいと思っていたけど、やっぱり疲れているらしい。徐々にではあるけど、眠気が襲ってきた。


 無駄な体力を使わずに休めとロックにも言われてしまったので、今日のところは大人しく従うことにしよう。


「これを使え。寒さを凌げる」

「ん、……ありがとう」


 大鞄の中から寝袋を取り出し、わたしに使わせてくれる。

 ロックは……木の幹に横になり、そのまま目を瞑った。魔物が近づいて来ても、すぐに対応できるようにするためらしい。


「――寝る前に、ちょっと待て」


 かけっ放しにしていた眼鏡を外し、寝袋に包まろうとすると、目を開けたロックから止められる。

 そして何かの魔法をかけられた。


「これって……」

「洗浄魔法だ。野宿の間は湯船に浸かったり体を拭いたりすることができないからな。これで我慢してくれ」

「……ううん。物凄く嬉しいわ」


 よかった……。

 まさか、こんな魔法があるとは思わなかった。


 洗浄魔法をかけられると、今日一日の汚れが綺麗さっぱり無くなり、スッキリした。

 ロックには何から何まで感謝の気持ちでいっぱいだ。


「それじゃあ……おやすみなさい、ロック」

「ああ、おやすみ」


 その言葉を合図に、わたしはゆっくりと眠りに落ちていった……。

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