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【36】スライム退治

 太陽が沈む頃……。

 わたしとロックは、新たな魔物と遭遇した。


「……あれは何? ひょっとして、あれも魔物なの?」


 何と表現すればいいのか分からない。

 水たまりが固まったまま地面を移動している。


 見た感じだと害はなさそうなので、もう少し傍に近づいてみる。すると、


「スライムだ。触ると溶けるぞ」

「えっ、溶ける!?」


 ロックの言葉に思わず仰け反った。

 溶けるって……この魔物、そんなに物騒な魔物なの?


「直に触ったら俺の足のようになる。見た目で判断すると痛い目見るぞ」

「……忠告、感謝するわね」


 確かに、見た目だけだと害がないと思って近づいてしまったけど、この魔物にとってはそれが狙いなのかもしれない。


「踏んだら……靴も溶ける?」

「溶ける」

「じゃあ、どうやって倒すのよ」

「簡単だ。魔石を砕け」


 言われて、わたしは目を凝らす。

 水たまりのような体のどこに魔石があるのか……。


「透過して地面が見えるから分かりづらいわね」

「場所が場所だからな」


 くつくつと喉を鳴らし、ロックが口の端を上げる。

 この男、わたしが困る姿を見て楽しいと思っているはずだ。そうに違いない。


「良い機会だ。そいつと戦ってみるか?」

「スライムと? ……うん。挑戦してみようかしら」


 わたしも、いずれは冒険者になるわけだし、この辺で一度魔物退治を経験しておくのも悪くない。

 記念すべき初めての魔物は、地面を這うスライムで決まりだ。


 ロックの説明によると、スライムは主に草木や小さな虫を餌として消化する。

 人間が触れたら一溜りもないけど、動き自体は遅いので、注意深く立ち回れば苦戦するような魔物ではないらしい。


「これを使え」

「うっ、……重いわね」


 ロックが鞘から剣を抜き、それをわたしに手渡す。

 ズシリと感じる重さだ。

 両手で持つのがやっとだけど、振り回せないこともない。


「……よーし」


 スライムの前に立って、剣を振り上げる。

 地面が比較的綺麗な場所に変わっていたので、スライムの体内にある魔石も肉眼で捉えることができている。

 あとはそれを破壊するだけだ。


「えいっ」


 魔石に狙いを定めて剣を振り下ろす。

 ほんの僅かにズレたけど、スライムの魔石にぶつかって端っこが欠けた。その瞬間、スライムはそのまま地面に溶けて消えてしまった。


「……えっと、これって……逃げたの? それとも倒したの?」


 どっちなのか分からない。

 わたしはロックの顔を見る。彼は地面を指さしている。


「あ、魔石……」


 そこには欠けた魔石が転がっていた。

 これがあるということは、無事にスライムを倒したということだ。


「やるじゃないか」

「え、えへへ」


 ロックに褒められて、つい頬が緩んでしまう。


 スライムを倒すには、魔石を破壊するしか方法がないらしいので、綺麗な状態の魔石を回収することはできない。

 でも、これはわたしが初めて自分の手で倒した魔物の魔石だ。欠けていても構わない。


 わたしは、魔石を手の平の上に乗せたまま、それを暫く眺めていた。

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