太陽が沈む頃……。
わたしとロックは、新たな魔物と遭遇した。
「……あれは何? ひょっとして、あれも魔物なの?」
何と表現すればいいのか分からない。
水たまりが固まったまま地面を移動している。
見た感じだと害はなさそうなので、もう少し傍に近づいてみる。すると、
「スライムだ。触ると溶けるぞ」
「えっ、溶ける!?」
ロックの言葉に思わず仰け反った。
溶けるって……この魔物、そんなに物騒な魔物なの?
「直に触ったら俺の足のようになる。見た目で判断すると痛い目見るぞ」
「……忠告、感謝するわね」
確かに、見た目だけだと害がないと思って近づいてしまったけど、この魔物にとってはそれが狙いなのかもしれない。
「踏んだら……靴も溶ける?」
「溶ける」
「じゃあ、どうやって倒すのよ」
「簡単だ。魔石を砕け」
言われて、わたしは目を凝らす。
水たまりのような体のどこに魔石があるのか……。
「透過して地面が見えるから分かりづらいわね」
「場所が場所だからな」
くつくつと喉を鳴らし、ロックが口の端を上げる。
この男、わたしが困る姿を見て楽しいと思っているはずだ。そうに違いない。
「良い機会だ。そいつと戦ってみるか?」
「スライムと? ……うん。挑戦してみようかしら」
わたしも、いずれは冒険者になるわけだし、この辺で一度魔物退治を経験しておくのも悪くない。
記念すべき初めての魔物は、地面を這うスライムで決まりだ。
ロックの説明によると、スライムは主に草木や小さな虫を餌として消化する。
人間が触れたら一溜りもないけど、動き自体は遅いので、注意深く立ち回れば苦戦するような魔物ではないらしい。
「これを使え」
「うっ、……重いわね」
ロックが鞘から剣を抜き、それをわたしに手渡す。
ズシリと感じる重さだ。
両手で持つのがやっとだけど、振り回せないこともない。
「……よーし」
スライムの前に立って、剣を振り上げる。
地面が比較的綺麗な場所に変わっていたので、スライムの体内にある魔石も肉眼で捉えることができている。
あとはそれを破壊するだけだ。
「えいっ」
魔石に狙いを定めて剣を振り下ろす。
ほんの僅かにズレたけど、スライムの魔石にぶつかって端っこが欠けた。その瞬間、スライムはそのまま地面に溶けて消えてしまった。
「……えっと、これって……逃げたの? それとも倒したの?」
どっちなのか分からない。
わたしはロックの顔を見る。彼は地面を指さしている。
「あ、魔石……」
そこには欠けた魔石が転がっていた。
これがあるということは、無事にスライムを倒したということだ。
「やるじゃないか」
「え、えへへ」
ロックに褒められて、つい頬が緩んでしまう。
スライムを倒すには、魔石を破壊するしか方法がないらしいので、綺麗な状態の魔石を回収することはできない。
でも、これはわたしが初めて自分の手で倒した魔物の魔石だ。欠けていても構わない。
わたしは、魔石を手の平の上に乗せたまま、それを暫く眺めていた。