王都の大広場へと、場面は変わる。
ここでは今日、マルスとメルの婚約発表が行われる予定だ。
しかし、マルスは焦っていた。
「どこだ……どこにいる? メル……お前はいったいどこに消えてしまったのだ……?」
メルの姿が、どこにも見当たらない。
王都中を王国の兵士たちが探しているが、メルの情報が一つも入ってこない。
「嘘だ、これは冗談だ、ありえない、このオレに黙って姿を消すなど絶対にありえない。きっと何者かに連れ去られたに違いない、そうだ、それが答えだ、今すぐにそいつを探して息の根を止めなければ、どこに行けば見つかる……」
延々と自問自答し、マルスはぐしゃぐしゃと両手で頭を掻き毟る。綺麗に整えていた御髪は見るも無残な状態に変わっている。
これが、メルの『溺愛』の効果だ。
一度でもメルと目を合わせてしまえば、『溺愛』から逃れることはできない。
たとえそれが一国の王子だとしても。
「ま、マルス様、そろそろお時間ですが……如何いたしましょうか」
「黙れ! 貴様……死にたいのか!」
「っ、失礼しました!」
マルスに睨まれた兵士は、すぐさまその場を立ち去る。
こんなことで殺されてしまってはたまらない。
しかしながら、幾ら待てども一向にメルは現れない。
このままでは本当にマルス一人で婚約発表をしなければならなくなる。
「くっ、くそっ、なんという無様で惨めなのだ……! これは末代までの恥だ……ッ」
何を言っても好転するわけではない。
今はとにかく、婚約発表を乗り切ることを考えるべきだろう。
「一人で……オレがメルの分まで……っ」
大広場には、既に数え切れないほどの王国民が詰めかけている。
もはや中止にすることもできないし、逃げ場もない。
たった一人で発表するしかないのだ。
「……チッ、行くぞ。オレの勇姿を見せつけてやる!」
覚悟を決めたマルスは、大広場の舞台へと上がる。
マルスが姿を現すと、耳を劈くほどの歓声がそこら中を支配した。
「――今だ、射抜け」
故に、油断していた。
それは、マルスが舞台に上がって僅か数秒のこと。
「ぐあっ」
マルスの肩に、矢が突き刺さる。
その場に倒れるマルスの姿を見て、悲鳴が上がった。
そして同時に、怒号が鳴る。
「行くぞ! 悪しき王子の首を獲れ! そして我が許にメルを取り戻すのだ!!」
声を上げて宣言するのは、第二王子のエリック・モルドーラン。
彼は今から反乱を起こす。
そんな彼も、マルスと同じく『溺愛』によって我を忘れているのだった。