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【32】師と弟子

 この世界には、幾つもの国が存在する。

 たとえば南のモルドーラン王国は、ロックやわたしが生まれ育った国だ。

 北にあるのはヴァントレア帝国で、日常的に王国と揉め事を起こすほどの犬猿の仲だ。

 東のオークリスタ公国は、アレだ。のんびりした性格の人が多い国で、わたしの叔父が住んでいる。

 そして西に位置するのが、フォルトナ共和国。わたしたちの新たな目的地となる国だ。


 元々、ロックはわたしを送り届けるだけのつもりだったらしい。

 だから目的地は帝国でも問題なかった。


 でも、事情が変わった。

 わたしが一人前の冒険者になるまで傍にいるとなると、帝国入りするのは避けなくてはならない。


 故に、土壇場で行く先を変更したらしい。


「え、それってつまり……わたしの師匠になってくれるってことよね?」


 わたしの依頼内容には、目的が三つあった。

 一つ目がわたしの護衛で、三つ目はロックに『溺愛』が効かない理由を探ること。この二つに関しては既に達成している。いや、護衛に関してはまだ継続中なのだけど。


 そして残る一つが、ロックがわたしの師匠になることだった。


 わたしは目を輝かせてロックを見る。すると、


「……今更、どこぞで野垂れ死なれても気分が悪いからな」


 ロックは目を合わせずに肯定する。

 これでわたしの目的は全て達成することができそうだ。


「ありがと、ロック! わたし、頑張ってロックみたいな冒険者になってみせるわ! ああっ、これからは師匠って呼んだ方がいいかしら?」

「止めろ」


 わたしからの問いかけに、ロックはぶっきらぼうに返事をしていた。

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