開いた荷物をまとめる。森狼の肉を袋に詰めてしまう。
その間も、ロックは警戒を怠らない。
「その先には気を付けろ、角兎が潜んでるぞ」
見てもいないのに分かるらしい。
元英雄の察知能力はわたしをこれでもかと驚かせてくれる。
そんなロックの姿を、わたしはぼんやりと眺める。
「……心眼かぁ」
ぽつりと漏らし、ため息を吐く。
ロックもわたしも、お互いに難儀なスキルを持ってしまったものだ。
どうすれば……わたしの気持ちを伝えることができるだろうか。
どうすれば……その気持ちが嘘ではないと信じてもらえるのだろうか。
ロックは『心眼』を閉じている。
人間不信の彼に、この想いを信じてもらうには、心の声を聞いてもらうほかにない。
だとすれば、今すぐにでも聞いて欲しい。そして知って欲しい。
こんなに心が揺れ動くのは初めてだった。
特定の誰かを心から好きだと思ったこと。そしてその相手にもわたしを好きになって欲しいこと。どれもこれもが私にとって初体験で、ついつい身悶えしてしまう。
だけどそれは無理。
彼が『心眼』を使えば、『溺愛』の影響を受けてしまう。
「……困ったものね」
ため息しか出てこない。
でも、不安はない。時間はたっぷりあるし、幾らでもチャンスはある。
ロックとの旅は、まだ始まったばかりなのだ。
わたしは彼の弟子で、彼はわたしの師匠だ。そう簡単に、この関係が終わることはないだろうし、離れ離れになることもないはずだ。
だから、誰にも邪魔されずに、ゆっくりと気持ちを伝えて行けばいい。
「よし、出発するぞ」
「ええ!」
ロックに言われて、わたしは笑顔で返事をする。
そしてまた、歩き出す。二人の目的地へと向けて……。