ロックは『心眼』で魔人の心を視た。
直後、どす黒い感情に心を乱され蝕まれてしまった。
これほどまでに大きな魔の感情は経験したことがない。
そして同時に、ギルデオルの心を視た結果、アレクが既に死んでいることも理解した。
思わず後ろを振り向いたことで、ギルデオルとアレク、二つの魔の感情に挟まれてしまう。
故に、その場に立っていることもままならない状況に陥っていたのだ。
だが、不運だったのはそれだけではない。
ビビデの心までも視てしまったことで、絶望がロックの心を支配する。
「クソッ、役に立たない奴め……!」
身動きの取れないロックを切り捨て、ビビデはこの場から脱出する方向に舵を切る。
ギルデオルに立ち向かうのは死を意味するので、逆方向のアレクへと向き直った。彼の背の向こうには、来た道が続いている。アレクさえ倒すことができれば、生き延びることも不可能ではない。
「悪く思うんじゃないぞ! 死ね!」
「「きみには無理だよ」」
「――う、がっ」
ギルデオルが魔法を放った。
それは真っ直ぐな線を残し、背を向けるビビデの胴体とあっさりと貫いてしまった。
「「だってほら、きみは英雄じゃないよね?」」
「あぁぁ、だ、だから何だって……っ」
その場に倒れ込み、ビビデは口から血を吐きながら顔を上げる。
すると、アレクが満面の笑みを浮かべたまま言い捨てる。
「「ただの雑魚が、この僕に勝てるとでも?」」
「っ、……ッ! き、貴様……俺様を侮辱するつも……っ」
「「あぁ、ごめんごめん。まだ喋ってたのに殺しちゃったよ」」
ビビデが声を上げるが、最後まで言い切ることはできなかった。
これにより、残されたのはロックただ一人となった。
「「どうする? ねえ、仲間はみんな死んじゃったよ? せっかくだからきみも死んでみる? そうする?」」
「……黙れ」
短く、呟く。
ロックは『心眼』を閉じた。そうすることで全ての存在から心を守り抜くことができる。
「仲間だと……? そんな奴らは……初めから一人もいない」
閉ざした心が悲鳴を上げ、涙を流す。
「「あー、そうなんだ? 彼らは仲間じゃなかったんだ? ただの同行者で、最初っから信用なんてしてなかったんだね? アハハッ、哀れな人間だよ、きみって奴はさ!」」
ギルデオルとアレク。二人に挟まれ嗤われる。
けれども、もう動じない。心は既に閉じている。
「かかってこい。お前らの息の根を止めてやる」
「「喜んで」」
そして、ロックの魔人討伐劇が幕を開けた。