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【28】『心眼』

「ろ、……ロック! なんとかしろよっ、ロック!!」


 剣を構えたまま、魔人とアレクを交互に見やるビビデが声を荒げる。するとようやくロックが立ち上がる。


「チッ、畜生がっ、バビデとブーが逝っちまった……ッ! こんなはずじゃなかったのによぉ……!!」


 元々の予定では、魔人討伐を果たしたあと、ロックにも死んでもらうはずだった。

 だが、もはやそれどころではない。

 ロックを囮にして、一刻も早くここから逃げ出さなければ命がない。


 ――そんな声が、ロックの耳に届く。


「……どいつも、こいつも」


 ため息しか出ない。

 心の声は誰も彼も腐り切っている。


「所詮、形だけの仲間だよな……」


 ビビデは、ロックを囮にするとは一言も呟いていない。

 だというのに、その声がロックの耳には聞こえてくる。


 ――『心眼』。

 それこそが、ロックが生まれながらに持ったスキルである。


 目を合わせた生物の心の声や能力値の全てを聞いたり視たりすることができる。

 日常生活で常に使用していると、不便極まりないスキルだ。嘘だらけの人間関係を前に、人間不信になるだろう。このスキルが原因で、ロックは実際になっている。


 故に、普段使いはしない。

 魔物との戦闘時のみ、発動するようにしていた。


 このスキルは魔物と戦う上で大いに役立った。

 たとえ言葉を発さずとも、魔物や魔人にも意思はあるし思考もする。だからそれを『心眼』で視ることで、行動を先回りすることができる。


 ロックは、『心眼』と共に生きてきた。

 このスキルのおかげで今があり、そして同時に今このとき、窮地に立たされることになっていた。

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