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【27】裏切り、ではない

 ロックと三兄弟が帝国入りしてから、八日が過ぎた。

 アレクに道案内される形で古城を目指した面々は、道中で迷うことなく、無事に目的地へ辿り着くことができた。


 血気盛んなブーを先頭に、ロックたちは古城の中へと侵入する。

 何種類もの魔物が次から次に襲い掛かってくるが、ものともせずに突き進んでいく。旅先案内人のアレクも、立派な戦力として働いてくれた。


 やがて、ロックたちは古城の最奥にある扉を開いた。

 そこにいたのは、羊頭の巨大な魔物だった。


「ふうん? アレがこの古城の主ってことかしら?」

「恐らくな」

「禍々しいやつだなぁ」


 三兄弟が各々口を開く。

 ロックとアレクはただ黙って臨戦態勢を取る。


「……よし。いつも通りに頼むぞ、ロック」

「ああ」


 ただの魔物が相手であれば、ブーが先頭に立って蹴散らす。

 だが、強大な敵を目前にしたときは、ロックを一番槍にして力量を測る。それが三兄弟のやり方だった。


 その一方、ロックは文句の一つも口にせずに戦闘を仕掛ける。

 いつものように剣を持ち、魔人の首を獲るために……しかし、思わぬ事態がロックたちを待ち受けていた。


「――ッ、ぐっ」


 突然、ロックが頭を押さえてその場に片膝をつく。

 更には後ろを振り向き、アレクの姿尾確認し、苦悶の表情を浮かべる。


「お、おい! ロック! 何をモタモタしてるんだ! さっさと立って奴に斬りかかれ!」


 ロックの身にいったい何が起きたのか。

 三兄弟が理解できずにいると、ビビデの視界の端で誰かが動いた。それはアレクだ。


「……は?」


 ビビデは間抜けな声を上げた。

 それもそのはず、ビビデの目には、アレクが振り下ろした剣よって、胴体を真っ二つに斬り裂かれるブーの姿が映っていた。


「あ、アレ……ッ! 貴様ッ、血迷ったか!!」

「アレク? ……あー、この人間の名前だったっけ?」


 赤く染まった剣を手に、アレクは笑いながら返事をする。


「ブー……? うそよ、嘘でしょ……? 死ん……で……」

「余所見は厳禁だよ? じゃないと死ぬから」

「うぎっ」


 ブーが死んだことで混乱中のバビデに、アレクが無防備に歩み寄る。そして当然のように剣で胴体を貫いた。


「そうそう、きみたちに言い忘れてたことがあったよ」


 バビデとブーをその手にかけたアレクは、大したことないと言わんばかりの表情で、それを口にする。もう一人と共に。


「「この人間なら、もう死んでるよ」」


 声が重なる。

 それはアレクの声と、もう一人。


「ま、まさか貴様ら……!」

「「あらためまして、自己紹介をするね」」


 羊頭の魔人が、アレクと同じ台詞を口にする。


「「僕の名は、アヴィ・レ・ギルデオル。伯爵位の魔人さ。そういうことだから、以後、お見知りおきを」」


 重なる声を響かせて、アレクと羊頭の魔人ギルデオルは、紳士の真似事のように深々とお辞儀をしてみせるのだった。

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