ロックと三兄弟が帝国入りしてから、八日が過ぎた。
アレクに道案内される形で古城を目指した面々は、道中で迷うことなく、無事に目的地へ辿り着くことができた。
血気盛んなブーを先頭に、ロックたちは古城の中へと侵入する。
何種類もの魔物が次から次に襲い掛かってくるが、ものともせずに突き進んでいく。旅先案内人のアレクも、立派な戦力として働いてくれた。
やがて、ロックたちは古城の最奥にある扉を開いた。
そこにいたのは、羊頭の巨大な魔物だった。
「ふうん? アレがこの古城の主ってことかしら?」
「恐らくな」
「禍々しいやつだなぁ」
三兄弟が各々口を開く。
ロックとアレクはただ黙って臨戦態勢を取る。
「……よし。いつも通りに頼むぞ、ロック」
「ああ」
ただの魔物が相手であれば、ブーが先頭に立って蹴散らす。
だが、強大な敵を目前にしたときは、ロックを一番槍にして力量を測る。それが三兄弟のやり方だった。
その一方、ロックは文句の一つも口にせずに戦闘を仕掛ける。
いつものように剣を持ち、魔人の首を獲るために……しかし、思わぬ事態がロックたちを待ち受けていた。
「――ッ、ぐっ」
突然、ロックが頭を押さえてその場に片膝をつく。
更には後ろを振り向き、アレクの姿尾確認し、苦悶の表情を浮かべる。
「お、おい! ロック! 何をモタモタしてるんだ! さっさと立って奴に斬りかかれ!」
ロックの身にいったい何が起きたのか。
三兄弟が理解できずにいると、ビビデの視界の端で誰かが動いた。それはアレクだ。
「……は?」
ビビデは間抜けな声を上げた。
それもそのはず、ビビデの目には、アレクが振り下ろした剣よって、胴体を真っ二つに斬り裂かれるブーの姿が映っていた。
「あ、アレ……ッ! 貴様ッ、血迷ったか!!」
「アレク? ……あー、この人間の名前だったっけ?」
赤く染まった剣を手に、アレクは笑いながら返事をする。
「ブー……? うそよ、嘘でしょ……? 死ん……で……」
「余所見は厳禁だよ? じゃないと死ぬから」
「うぎっ」
ブーが死んだことで混乱中のバビデに、アレクが無防備に歩み寄る。そして当然のように剣で胴体を貫いた。
「そうそう、きみたちに言い忘れてたことがあったよ」
バビデとブーをその手にかけたアレクは、大したことないと言わんばかりの表情で、それを口にする。もう一人と共に。
「「この人間なら、もう死んでるよ」」
声が重なる。
それはアレクの声と、もう一人。
「ま、まさか貴様ら……!」
「「あらためまして、自己紹介をするね」」
羊頭の魔人が、アレクと同じ台詞を口にする。
「「僕の名は、アヴィ・レ・ギルデオル。伯爵位の魔人さ。そういうことだから、以後、お見知りおきを」」
重なる声を響かせて、アレクと羊頭の魔人ギルデオルは、紳士の真似事のように深々とお辞儀をしてみせるのだった。