一瞬。
それはまさに瞬きするほどの一瞬の出来事だった。
目を瞑って、開いたときには、わたしたちを取り囲んでいたはずの全ての森狼が地面に転がっていた。
腰に差した剣を抜いたのだろう。
森狼のものと思しき真っ赤な血がべっとりと付いている。
「す……すごい」
よく見ていないけど、凄いってことだけは理解できる。
この数の魔物をあっさりと返り討ちにするとは思ってもみなかった。
これが、元英雄の実力なのか。
義足になっても全く腕が落ちていないのではないだろうか。わたしはそう思った。
「……え、なに? ロック、貴方……何をしているの?」
とここで、ロックは荷物の中から手袋を出して付けると、何を思ったか森狼の死体を漁り始めた。
「何って、魔石の回収に決まってるだろ」
「魔石? なにそれ」
「……メル。お前って本当に何も知らないんだな」
わたしの返事を耳にして、ロックは肩を竦めた。
魔石というものを回収しながらも詳しく話してくれる。
――魔石。
それは、魔物の体内にある魔力が詰まった石のことだ。
これを回収し、ギルドに提出することで、魔物の討伐証明となる。
そして同時にお金と交換することができる。
言われて思い出す。
スキルについてひたすら調べていた頃、魔石についても何度か目にしていた。
確か、魔道具の主な動力源が魔石だったはずだ。
「本当なら、こいつらの皮も剥ぎ取りたいところだが……時間が惜しい。このまま魔石を回収次第、先に進むぞ」
「皮を……剥ぐの? ……思っていたよりも冒険者って野生的なのね」
冒険者になったら、毎日こんな生活を送ることになるのだろうか。
思い浮かべてみるけど、上手く想像することができない。
「止めるか? 今ならまだ引き返せないこともないぞ」
「っ、もちろん、続けるわ。この程度で臆するわたしじゃないから」
今更、王国に戻るつもりはない。
自分の意思で鳥籠の外に飛び出したのだから、全てを受け入れる覚悟だ。
「……ふん、物好きな奴だな」
そんなわたしを見ながら、ロックは口の端を上げて笑った。