森の中は暗かった。
怖くはないと言った手前、不安を口に出すことはなかったけど、自然と体が縮こまる。
わたしはロックの背中にしっかりとくっ付いて歩き、不測の事態に備えていた。
「……魔物、出てこないわね」
暫く歩いても、一向に魔物は姿を現さない。
そうなってくると、段々と心に余裕が生まれてくる。調子に乗ってわたしは軽口を言う。
「ひょっとして、わたしたちに恐れをなして逃げているのかしら」
「違う」
でもそれをロックはあっさりと否定した。
そしてワザとじゃないかと言いたくなるようなことを口にする。
「俺たちという獲物を確実に捕らえるために、下準備をしてる段階だ」
「ちょ、ちょっと、それって……」
ガサッ、と何かが動く音が聞こえた。
慌ててその方向へと目を向けてみる。するとそこには犬のような見た目の動物が潜んでいた。
「森狼だ。群れを成して獲物を食い散らかす魔物だな」
「く、食い散らかす……って、もしかしてわたしたちを……?」
「他に何がいる」
眩暈がした。
外に出て早々に、魔物に四方を囲まれてしまい、今にも襲い掛かってきそうな雰囲気だ。
目に見える範囲だけでも十匹以上はいるし、逃げ場はどこにもない。
急に怖くなったわたしは、ロックの背中に文字通りにしがみつく。
「ど、どうしよう……っ」
「おい。邪魔だ、動けないだろ」
「で、でも」
「死にたくないなら、俺から離れてろ」
死にたくないから離れたくないのに、と心の中で叫ぶ。
だけどこのままだと、ロックの邪魔になるのは明白だ。
ロックの言うことに従い、わたしは渋々離れる。
「すぐ終わる」
不安気なわたしを見て、安心させるようにロックが言う。
と同時に、森狼たちが一斉に飛びかかってきた。