「あっ、兵士たちが出てきたわ」
南門から兵士がわらわらと外に出てきた。
どうやら飛行魔法で外壁を飛び越える姿を見られていたらしい。
それがロックとわたしだということはバレていないはずだけど、残念ながらゆっくり歩いてはいられなそうにない。
「話の続きは、また後日だ」
「ええー。気になるから今日中に絶対話してよね」
お願いすると、ロックは肩を竦めて反応した。
王国の南方は森林地帯になっていた。
ロックの話によると、魔物が多く潜んでいるので危険な場所のようだ。
でも、ロックは兵士たちを巻くために、わたしを連れて森の中へと入るつもりだ。
「……ねえ、一言いい?」
「もたもたしてると追いつかれるぞ」
「それは分かっているわ」
早歩きで進みながらも、わたしはロックに声をかける。
すると、兵士たちとの距離を確認しながらもわたしに目を向けた。
「なんだ」
「言ったと思うけど、わたし……外に出るのってこれが初めてなの」
不意に、ロックが足を止める。
慌ててわたしもその場に立ち止まった。
「良いものだろ? 冒険者になれば、この景色を毎日楽しめるぞ」
「っ、……ええ、本当に素晴らしいことよね」
モルドーラン王国から、ヴァントレア帝国へ。
そして一つ星の新米冒険者として新たな人生を歩み始める。
こんなにも胸がトキメクことは滅多にない。
「……まあ、その浮かれ気分がいつまで続くか疑問だがな」
「あら? ずっと続くに決まっているじゃない」
「どうだかな」
そう言って、ロックは再び前へと早歩きを始める。
彼に並んでわたしも足を動かす。
「これから俺たちが入るのは、魔物が巣食う森だ。お前は一度も見たことがないんだろ? 怖がって漏らすなよ」
「失礼ね。怖がったりなんてしないから」
ふん、と鼻息荒く声を上げる。
けれども、続けてすぐに笑ってみせた。
「そもそも、何かあっても貴方がわたしを守ってくれるでしょう? だから何にも心配していないわ」
「……はぁ。言っとけ」
ため息を吐くロックの横顔を見ながら、わたしは軽い足取りで森の中へと入って行った。