「ふんふん、ふん」
鼻歌を鳴らしながら、アレクは旅の支度を整えている。
今日はモルドーランの英雄と先んじて言葉を交わす機会を得ることができた。おかげで、自分の思惑通りに事が運ぶかもしれない。
これが上手くいけば、父を見返すことができる。
冒険者として成り上がることが可能となる。
アレクの実力は申し分ない。腕は確かなのだ。
あとは、魔人を倒したという実績だけ。それだけが必要だった。
「この旅の終わりには、僕も一躍有名人だ」
そしてゆくゆくは帝国の英雄となってみせる。
五つ星になることができれば、冒険者ギルドを味方に帝国民を扇動し、国自体をひっくり返すことだって不可能ではなくなる。
王家の血を引いた妾の子が、悪しき帝国へと立ち向かう。
「うーん、素晴らしいシナリオだ」
アレクは、満足気に頷く。
もちろん、それを成功させるためにも、ロックには何が何でも魔人討伐を果たしてもらわなければならない。たとえ四肢の一つを落としたとしても。
「精々、この僕の役に立っておくれよ……」
モルドーランの英雄の顔を思い浮かべながら、アレクはほくそ笑む。
このときはまだ、ロックは気付いていなかった。
アレクの思惑に。そして「彼」の企みに……。