アレク・ヴァントレアは王家の人間であり、同時に冒険者でもある。ギルドからの評価では、実力も申し分ないとされている。
だが、冒険者として成功したわけではない。
今よりももっと活躍し、ロックのように英雄と呼ばれるようになりたい。そうすることで、帝王や腹違いの兄弟たちを見返してやりたい、と常々思っていた。
故に、ロックたちの旅先案内人に任命されたのは渡りに船だと感謝した。
「仲間なら間に合ってる」
「そう言わずにさ、今回だけ! 今回だけでいいから、頼むよ! 一人ぐらい増えてもいいと思わないかい?」
「面倒なだけだ。それに弱い奴は必要ない」
「ああ、それなら心配しなくていいよ。僕はこう見えても強い方だからさ。……ほら」
弱い奴は必要ないと言って追い払うつもりだったが、アレクは実力を示してきた。
「それは……」
「帝国の冒険者証だよ」
アレクが自分の実力を証明するために提示したもの。
それは帝国の冒険者証だ。そしてそこには星が三つ並んでいた。
「きみは王国のギルドで五つ星の英雄クラスだろう? 僕はまだ三つ星だけど、実力があることは分かってもらえるはずだよ」
冒険者証の星の数は、多ければ多いほど冒険者としての格が高いことを示している。
一つ星が成り立ての新米冒険者で、初心者を脱した冒険者が二つ星、三つ星になると経験豊富な冒険者やベテランの域に達した者を表し、四つ星は魔人を相手に戦えるほどの冒険者となる。そして最上位の五つ星は、勇者や英雄と呼ばれる冒険者たちのことだ。
アレクは三つ星なので、冒険者の格としては真ん中に位置する。
「本当は四つ星クラスの実力を持っているんだ。でも、魔人と戦わないことには格を上げることができないからさ」
だから、と付け加える。
今回の旅にロックたちの仲間として同行し、共に魔人討伐を果たすことで、四つ星になることがアレクの目的であった。
「結局はさ、旅先案内人として一緒に行動するんだし、魔人を倒すまでの間に判断してくれるといいよ」
軽い口調でアレクが言う。
確かにアレクの言う通り、旅先案内人として魔人が巣食う古城へと同行するのだ。
道中で邪魔にさえならなければ、古城の中へと連れて行くのも悪くないかもしれない。ロックはそう考えた。
アレクはそれだけ伝えると、満足したらしい。
家に帰ると言ってギルドの外へと出て行った。
これがロックの帝国入り初日の出来事だった。