モルドーラン王国の英雄となったロックは、冒険者仲間の三兄弟ビビデ・バビデ・ブーと共に、隣国――ヴァントレア帝入りした。
北のヴァントレアと南のモルドーランは犬猿の仲だ。
王国はロックの帝国入りを渋ったが、ロックは一介の冒険者に過ぎない。その行き先を止める権利はなかった。
しかもロックは魔人討伐を果たした英雄だ。
そんな彼を国内に縛り付けるようなことをすれば、ギルドから反発の声が上がるだろう。
では、ロックの冒険者証を取り上げてしまえばどうか。
それも結局は無駄な行為であり、帝国で新たに登録するだけだ。
それならばと、王国側はロックに帝国入りに条件を付けた。
帝国領土の魔人を討伐したら、王国に戻ること。
その条件を呑み、ロックと三兄弟は帝国入りを果たした。
帝国側は、ロックたちを英雄として盛大に持て成した。国内にも有名かつ実力のある冒険者は多数存在するが、勇者や英雄といった呼び方をされるほどの者は、まだいなかった。
その日、帝国入りを祝うパーティーが開かれた。
そこでロックは、うんざりするほどの帝国貴族たちと顔を合わせる羽目になる。
三兄弟は華やかな舞台やパーティーが好きだったが、ロックは苦手だ。
だから隙を見て途中で抜け出すと、そのまま城下町を一人散策し、あのときのメルと同じように冒険者ギルドへと足を運んでいた。
「――やあ、きみがモルドーランの英雄のロック・クオールだね?」
「誰だ」
そこで、一人の青年から話しかけられる。
「初めまして。僕の名前はアレク・ヴァントレア。一応の肩書は、この国の第四王子さ」
これが、ロックとアレクの最初の出会いだった。