ロックにお姫様抱っこをされたまま、空の旅を暫く堪能したあと、わたしは地に足を付けて一息吐く。そしてすぐさま抗議の声を上げる。
「急すぎるでしょ!」
「なにがだ」
「空よ! 幾ら何でも説明が少なすぎるわ!」
「なんだ、落ちると思って怖かったのか」
「違うから! そうじゃなくて、そのっ、……もう!」
はあぁ、と深いため息を吐いた。
お姫様抱っこのことは、一先ず置いておこう。それよりも何よりも言いたいことがある。
「……ロック。貴方ね、空を飛べるなら最初から教えてなさいよね」
ロックが魔法で空を飛べると知っていたなら、あんなに悩むことなく、もっと簡単に王都の外に抜け出すことができたはずだ。
勿体ぶって、わたしを驚かせたかったのだろうか。
そう考えて、しかしすぐに察した。
「ねえ、もしかして……空を飛ぶのって、魔力の消費量が多いの? だからギリギリまで使わなかったとか……」
「それは違う」
「じゃあなんでよ!」
違うのかっ、と心の中で叫んでしまう。
「単純だが、使えることを隠しておきたかっただけだ」
「隠すって……どうしてよ」
「知らないのか? 飛行魔法は禁呪の一種だぞ」
「禁呪……」
あらためて、ロックが説明してくれる。
飛行魔法に関しては、これまでに一度も王国内で使ったことがないらしい。それもそのはず、飛行魔法は禁忌魔法の一つに指定されていて、もし使えば問答無用で死罪になる。
だから、ロックは今の今まで飛行魔法を使えることを秘密にしていたのだ。
と言いつつも、帝国にいた頃、ロックは大勢の前で飛行魔法を使ったことがあるらしく、使うときは普通に使うと付け加えた。
「……バレたら死罪なのに、どうして使ってくれたの」
帝国はともかく、王国ではまだ知られていないはずだ。
それなのに何故、危険を顧みずに飛行魔法を使ったのか。
「俺はな、一度引き受けた依頼は絶対に達成すると決めているんだよ」
「そっかぁ。ロックは冒険者の鑑ね」
「馬鹿か。……あとついでに言うと、お前が諦めるとか言うからだ」
籠の中で大人しく生きていく。
そんなことを依頼主に言われたから、ロックは覚悟を決めたのかもしれない。
「……うん。やっぱり貴方に依頼して正解だったわ」
「勝手に言ってろ」
ふふっと笑う。
とここで、ふと思い出す。
そう言えば、ロックは帝国に渡ったあと、魔人との戦闘で左足を失っていた。
引き受けた依頼は絶対に達成すると言ったけど、魔人討伐はできたのだろうか。
「……メル。お前の考えてることぐらい、すぐに分かるぞ」
「なんのこと?」
「この足のことだろ」
「うぐっ」
さすがに鋭い。
わたしの表情の変化や目線を観察して、そのことに気付いたのだろう。
「さっきも言ったことだが、俺は絶対に依頼を失敗しない。それはあの魔人の討伐依頼に関しても同じことだ」
ゆっくりと歩きながら、ロックはあの日のことを思い出す。
そして、依頼主であるわたしに向けて語り始めた。