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【15】勘違い王子

 エリック様の背後には、大勢の兵士の姿があった。

 どうしてこんな場所にこれほどの数の兵を集めているのか。


 わたしは、すぐに察した。


「エリック様こそ、このような時間にどうしてこちらに?」

「それはだね、今日と言う日がモルドーラン王国の生まれ変わる日だからさ!」


 剣を抜く。そして夜明け前の空へと向けて、高々と掲げてみせる。

 その台詞を聞いて、わたしはやっぱりかと思った。


 ここにいる兵士たちは、第一王子のマルス様を亡き者にするという目的のために、エリック様の許へと集ったのだろう。つまり、エリック派の人たちだ。


 今日の正午、城下町の大広場にて、マルス様とわたしの婚約発表が行われる。

 そこを襲撃し、勢いのままにマルス様の首を獲る算段なのだ。


 それはもう、事細かに、エリック様や兵士の人たちは漏らしてくれた。

 丁度腹ごしらえ中だったということもあって、ロックとわたしもついでにご相伴に預かりながら言葉を交わす。


「それで、もう一度聞くけど、きみはどうしてここにいるんだい?」


 再び、エリック様が質問する。

 バレたらマズイ。でも良い案が思い浮かばない。どうすればいい……?


「激励です。王都で騒ぎになる前に、エリック様に会いたいとメル様が仰られるので、私が護衛を務めました」

「なるほど! そういうことだったのか!」


 すると、わたしの横から口を挟む人物がいた。それはもちろん、ロックだ。

 あのロックが畏まった話し方でエリック様に説明している。これは非常に珍しい光景と言えるだろう。


「いやはや素晴らしい。さすがは僕が愛してやまない女性だ!」


 ロックの説明を聞いて、エリック様は大喜びしている。

 でも、すぐに眉を潜めた。


「きみ、そんな足で護衛が務まるのか?」

「エリック様、彼はこう見えても腕は確かなのです」

「ふむ……メルがそういうのであれば、間違いないのだろうね」


 今度はわたしが口を挟み、太鼓判を押す。

 それを聞いたエリック様は、まんまと騙されてしまった。


「それでは、わたしはそろそろ戻ろうと思います」

「ああ、もうそんな時間か……もっときみの笑顔を見ていたかったよ」

「わたしもですわ、エリック様」


 言葉を交わす。

 わたしの横に立つロックは、心の中で腹を抱えて笑っているに違いない。


「今日、僕の時代が訪れるのを楽しみにしておいてくれたまえ。……では、愛しているよ、メル」

「ええ、わたしも……」


 必死に笑みを作り、エリックと手を握る。

 そしてようやく、離れることができた。


 来た道を戻り、ロックとわたしは再び城下町の中に入る。


「時間が惜しいわね」

「あれは想定外だ。逆側から行くぞ」


 遠回りにはなるが、仕方あるまい。

 北門から抜けるのを断念し、真逆の南門から迂回して行くことに決めた。


「……どうか、誰も命を落としませんように」


 後ろを振り向き、エリック様と仲間の兵士たちに向けて祈りを捧げる。

 それを見たロックは、何も言わずにやれやれと首を振っていた。

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