エリック様の背後には、大勢の兵士の姿があった。
どうしてこんな場所にこれほどの数の兵を集めているのか。
わたしは、すぐに察した。
「エリック様こそ、このような時間にどうしてこちらに?」
「それはだね、今日と言う日がモルドーラン王国の生まれ変わる日だからさ!」
剣を抜く。そして夜明け前の空へと向けて、高々と掲げてみせる。
その台詞を聞いて、わたしはやっぱりかと思った。
ここにいる兵士たちは、第一王子のマルス様を亡き者にするという目的のために、エリック様の許へと集ったのだろう。つまり、エリック派の人たちだ。
今日の正午、城下町の大広場にて、マルス様とわたしの婚約発表が行われる。
そこを襲撃し、勢いのままにマルス様の首を獲る算段なのだ。
それはもう、事細かに、エリック様や兵士の人たちは漏らしてくれた。
丁度腹ごしらえ中だったということもあって、ロックとわたしもついでにご相伴に預かりながら言葉を交わす。
「それで、もう一度聞くけど、きみはどうしてここにいるんだい?」
再び、エリック様が質問する。
バレたらマズイ。でも良い案が思い浮かばない。どうすればいい……?
「激励です。王都で騒ぎになる前に、エリック様に会いたいとメル様が仰られるので、私が護衛を務めました」
「なるほど! そういうことだったのか!」
すると、わたしの横から口を挟む人物がいた。それはもちろん、ロックだ。
あのロックが畏まった話し方でエリック様に説明している。これは非常に珍しい光景と言えるだろう。
「いやはや素晴らしい。さすがは僕が愛してやまない女性だ!」
ロックの説明を聞いて、エリック様は大喜びしている。
でも、すぐに眉を潜めた。
「きみ、そんな足で護衛が務まるのか?」
「エリック様、彼はこう見えても腕は確かなのです」
「ふむ……メルがそういうのであれば、間違いないのだろうね」
今度はわたしが口を挟み、太鼓判を押す。
それを聞いたエリック様は、まんまと騙されてしまった。
「それでは、わたしはそろそろ戻ろうと思います」
「ああ、もうそんな時間か……もっときみの笑顔を見ていたかったよ」
「わたしもですわ、エリック様」
言葉を交わす。
わたしの横に立つロックは、心の中で腹を抱えて笑っているに違いない。
「今日、僕の時代が訪れるのを楽しみにしておいてくれたまえ。……では、愛しているよ、メル」
「ええ、わたしも……」
必死に笑みを作り、エリックと手を握る。
そしてようやく、離れることができた。
来た道を戻り、ロックとわたしは再び城下町の中に入る。
「時間が惜しいわね」
「あれは想定外だ。逆側から行くぞ」
遠回りにはなるが、仕方あるまい。
北門から抜けるのを断念し、真逆の南門から迂回して行くことに決めた。
「……どうか、誰も命を落としませんように」
後ろを振り向き、エリック様と仲間の兵士たちに向けて祈りを捧げる。
それを見たロックは、何も言わずにやれやれと首を振っていた。