荷物を持ち、城下町を駆け足で進んで行く。
待ち合わせ場所の裏路地に着くと、既にロックの姿があった。
「貸せ」
そう言って、ロックは手を差し出す。
わたしの荷物を持ってくれるということだろう。だけど、
「え? ……大丈夫なの?」
「俺を馬鹿にしてるのか」
わたしの言葉に反応し、ロックは目を細めて答える。
「俺の力を借りたいと言った奴が、俺の力を疑ってどうする」
「……うん。それもそうね」
ロックとは、これから長い付き合いになるのだ。
初めから疑っていては信頼関係も築けない。
「よろしくお願いするわ」
「……行くぞ」
わたしの荷物を持ったあと、ロックは返事を待たずに歩き始める。
その様子を見て、わたしは安堵した。
正直、心配していた。
でもロックは義足のままでスタスタと歩き始める。それはまるで自分の体の一部であるかのように……。
すると、ロックが足を止めて振り返る。
わたしの視線が気になったのだろう。
「魔力のおかげだ」
「え、魔力の……?」
「ああ。義足の箇所に魔力を流すことで、違和感を消しているんだ」
「……なるほど?」
「分からなくてもいい。とりあえず知っておけ」
ロックは更に続ける。
特定の箇所に魔力を直接流すことで、自分の足のように振る舞うことができる。
当然のことながら、魔力は減り続ける。
だけど、ロックはモルドーランの英雄と呼ばれた冒険者だ。彼の魔力量は、そんじょそこらの冒険者とは比べ物にならないらしい。
とはいえ、一度も魔法を使ったことのないわたしにとって、魔力の話はチンプンカンプンだった。だから言われた通りに知っておくことにした。
そんな話をしながら歩き続けること十分足らず。
人目を避け、城下町の北門から外に出た。
「……この国ともお別れね」
振り返り、わたしは王都に別れを告げる。
暗くてよく見えないけど、きっと外壁も立派に違いない。
そんな呑気なことを考えながら王都を眺めていると、逆側から声をかけられた。
「……メル? メルじゃないか?」
「ッ!?」
「ここは王都の外だが……何故きみがここに?」
声の主は、疑問を口にする。
同時にしっかりと目を合わせてくる。
「……え、エリック様」
わたしに声をかけたのは、元婚約者のエリック・モルドーラン様だった。