彼――ロックとは一旦別れて、わたしは旅支度をすることにした。
メロール邸に戻ると、何やら両親がウキウキしていた。声をかけてみると、明日の婚約発表を楽しみにしていることが分かった。
残念だけど、それは中止になる。
何故ならその場にわたしがいないから。
お父様とお母様は怒るだろうか。『溺愛』の影響下にあるうちは、姿を消したわたしのことを心配してくれるかもしれない。でも、効果が切れたあとは……?
マルス様だって、正気に戻ったあと、わたしに対して何を思うのか。
何らかの魔法や、『魅了』のようなスキルを使われていたのだと、勘違いするかもしれない。もしそうなれば、わたし自身はもちろんのこと、メロール家の立場も危うくなる。
わたしの両親が、本当の愛を与えてくれていたか否か。
それは今も継続して判断がつかない。
それでもわたしにとって二人は大切な家族だ。できることなら、今までのように幸せに生きていて欲しい。では、どうすればいい?
困ったときは、いつも叔父の出番だった。
隣国に渡る前に、まずは叔父に手紙を出しておく。
問題なく届いたならば、東のオークリスタ公国までは三日もかからないはずだ。
そして、両親を匿ってもらおう。
わたしが姿を消してから、猶予は十八日間ある。その間は『溺愛』の効果が切れることはないので、きっと上手くいくはずだ。
書置きには「ごめんなさい、家出します。探さないでください。それとすぐに叔父の許へ向かってください。王都に残るのは危険です」と書き残すことにしよう。
それから暫くして、ようやく旅支度が整った。
そしてわたしは、二人の目を盗んで夜明け前にメロール邸を抜け出した。