あの日以来の再会に嬉しくなり、わたしは彼に声をかけた。すると、
「……ああ。なんだ、あのときの生意気な子供か」
「生意気とは失礼ね、あれは貴方の態度が問題だったと思うけど?」
わたしを覚えてくれていた。
それが嬉しくて、ついつい軽口をぶつける。
「俺は何もしてない。お前が勝手に喧嘩を売ってきたんだろ」
「そして貴方は喧嘩を買わずに逃げようとしたのよね」
「相手にしなかっただけだ」
これだ、このやり取りだ。
わたしはこれを求めていたのだ。
やはり彼には『溺愛』が効かない。
わたしは心が弾んだ。
嬉しさのあまり、もっとたくさん言葉を交わそうと、彼の隣に腰掛けようとして……わたしは気付いてしまった。
彼の、左の足首から先がないことに……。
「……それ、どうしたの」
声のトーンが落ちたことに気付いたのだろう。
彼は自嘲気味に口を開く。
「見ての通り、義足になった。ただそれだけだ」
「それだけ……って」
口を閉じ、何を言えばいいのか思考する。
でも、何も浮かばない。彼とわたしは旧知の中でも恋人同士でもない。だから、訊ねるのは悪い気がした。だけど、
「……何があったの」
わたしは彼に訊ねた。
「隣国に渡ってから、貴方の身に何が起きたのか……」
それは恐らく、気紛れだったのかもしれない。
けれども彼は、わたしの顔をじっくりと見て……ため息を一つ吐くと、詰まらなそうに語り始めてくれた。
魔人討伐を果たした彼は、モルドーラン王国の英雄となった。
それからすぐに隣国――ヴァントレア帝国へと渡り、半月ほどが過ぎたある日、魔人との戦闘で足を負傷し、義足に頼ることになった。
足の無い彼は、英雄ではない。
満足に戦うこともできない。
その足で、誰にも頼らずたった一人で、隣国を引き揚げた。
ずっと、彼は王都にいた。
だけど、義足になってしまった。冒険者としては既に終わった存在だ。
義足になる前に、彼は遊んで暮らせるほどのお金を稼いでいる。
このまま生活する分には困らないだろう。
でも、引退したわけではない。
何度も辞めようと思ったけど、冒険者だった頃の自分に未練がある。それだけが彼の心の支えだった。
だから歩けなくなった今でも、ギルドに足を運んでは管を巻く日々を送っていた。
「……だが、この生活ももうすぐ終わりだ」
そう言って、彼は財布を机の上に放り投げた。
中を覗いてみると、小銭がほんの少しだけ見える。それ以外のものは何も入っていない。
「稼いだお金は……」
「全部、酒代で消えた」
「っ」
遊んで暮らせるほどの額を稼いだのに、どうやら酒代だけで底をついてしまったようだ。
かつて、英雄と呼ばれたあの彼が、今では見る影もなく落ちぶれている。
わたしを色眼鏡で見ない唯一の存在が……。
「先に言っとくが、家まで送り届けるのは断るからな。この足で歩くのは面倒だ」
あのときのことを言っているのだろう。
でも、その台詞のおかげで、わたしは思い出した。
確かあのとき、ギルドの職員が依頼したことで、彼は重い腰を上げていた。
だとすれば、あのときと同じようにすれば、ひょっとすると……。
一人頷き、わたしは決意する。
そして彼と向き合い、その目を真っ直ぐに見つめたまま、想いをぶつける。
「――ロック・クオール。義足の冒険者である貴方に、わたしから一つ、依頼をお願いしてもよろしいかしら」