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【11】過去の英雄

 あの日以来の再会に嬉しくなり、わたしは彼に声をかけた。すると、


「……ああ。なんだ、あのときの生意気な子供か」

「生意気とは失礼ね、あれは貴方の態度が問題だったと思うけど?」


 わたしを覚えてくれていた。

 それが嬉しくて、ついつい軽口をぶつける。


「俺は何もしてない。お前が勝手に喧嘩を売ってきたんだろ」

「そして貴方は喧嘩を買わずに逃げようとしたのよね」

「相手にしなかっただけだ」


 これだ、このやり取りだ。

 わたしはこれを求めていたのだ。


 やはり彼には『溺愛』が効かない。

 わたしは心が弾んだ。


 嬉しさのあまり、もっとたくさん言葉を交わそうと、彼の隣に腰掛けようとして……わたしは気付いてしまった。

 彼の、左の足首から先がないことに……。


「……それ、どうしたの」


 声のトーンが落ちたことに気付いたのだろう。

 彼は自嘲気味に口を開く。


「見ての通り、義足になった。ただそれだけだ」

「それだけ……って」


 口を閉じ、何を言えばいいのか思考する。

 でも、何も浮かばない。彼とわたしは旧知の中でも恋人同士でもない。だから、訊ねるのは悪い気がした。だけど、


「……何があったの」


 わたしは彼に訊ねた。


「隣国に渡ってから、貴方の身に何が起きたのか……」


 それは恐らく、気紛れだったのかもしれない。

 けれども彼は、わたしの顔をじっくりと見て……ため息を一つ吐くと、詰まらなそうに語り始めてくれた。


 魔人討伐を果たした彼は、モルドーラン王国の英雄となった。

 それからすぐに隣国――ヴァントレア帝国へと渡り、半月ほどが過ぎたある日、魔人との戦闘で足を負傷し、義足に頼ることになった。


 足の無い彼は、英雄ではない。

 満足に戦うこともできない。


 その足で、誰にも頼らずたった一人で、隣国を引き揚げた。


 ずっと、彼は王都にいた。

 だけど、義足になってしまった。冒険者としては既に終わった存在だ。


 義足になる前に、彼は遊んで暮らせるほどのお金を稼いでいる。

 このまま生活する分には困らないだろう。


 でも、引退したわけではない。

 何度も辞めようと思ったけど、冒険者だった頃の自分に未練がある。それだけが彼の心の支えだった。


 だから歩けなくなった今でも、ギルドに足を運んでは管を巻く日々を送っていた。


「……だが、この生活ももうすぐ終わりだ」


 そう言って、彼は財布を机の上に放り投げた。

 中を覗いてみると、小銭がほんの少しだけ見える。それ以外のものは何も入っていない。


「稼いだお金は……」

「全部、酒代で消えた」

「っ」


 遊んで暮らせるほどの額を稼いだのに、どうやら酒代だけで底をついてしまったようだ。


 かつて、英雄と呼ばれたあの彼が、今では見る影もなく落ちぶれている。

 わたしを色眼鏡で見ない唯一の存在が……。


「先に言っとくが、家まで送り届けるのは断るからな。この足で歩くのは面倒だ」


 あのときのことを言っているのだろう。

 でも、その台詞のおかげで、わたしは思い出した。


 確かあのとき、ギルドの職員が依頼したことで、彼は重い腰を上げていた。

 だとすれば、あのときと同じようにすれば、ひょっとすると……。


 一人頷き、わたしは決意する。

 そして彼と向き合い、その目を真っ直ぐに見つめたまま、想いをぶつける。


「――ロック・クオール。義足の冒険者である貴方に、わたしから一つ、依頼をお願いしてもよろしいかしら」

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