目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
【幕間】王の器

 モルドーラン王国、第一王子――マルス・モルドーラン。

 オレは、この世に生を受けたときから「王」としての器を手にしていた。


 ――『王制』。

 世界でも類を見ない珍しいスキルの所持者だ。


 誰もがオレに平伏し、跪く。のちに一国の王となる身として、これ以上にない相応しいスキルと言えるだろう。


 このオレが望めば、それが何であろうと手に入れることができる。

 故に、「アレ」も手に入れることにした。


 アレとは、愚弟エリックの婚約者のことだ。


 オレに相応しい女など、世界を探し回っても見つからないかもしれない。

 オレ自身、アレへの興味は微塵も持っていなかったが、これまでに愚弟の尻拭いを何度もしてきた。


 その愚弟が、やたらと自慢してくるのが鼻につく。

 だから一目見て、アレを直接貶してやるつもりだったのだ。


 ……だが、それは無理な話だった。


 アレを見たとき……いや、彼女を目にしたとき、オレは……恋に落ちた。


 手に入れたい。是が非でも。

 彼女は愚弟には勿体ない。『王制』スキル所持者のオレにこそ相応しい。


 ある日、王立図書館に彼女がいると知り、足を運んだ。

 どうやら彼女はスキルに興味を持っているらしく、度々調べに通っているらしい。


 それはつまり、スキル所持者のオレのことを深く知りたい……そう理解した。


 オレも、彼女にオレのことを知って欲しい。

 いずれこの国の王となるオレのことを、オレの口から直接教えてやりたい。


 そう、そうだ。

 これが、これこそが、人を好きになるということなのだ。

 オレの隣に並び立つに相応しいのは、この世界で彼女だけだ。


 故に、オレはエリックに圧力をかけた。

 彼女との婚約を破棄し、オレのものとするために。


 そしてすぐに、オレは彼女を婚約者として迎え入れた。


 このオレは、『王制』を持つ王の器だ。

 オレの手に掴めないものは存在しない。


 今までも、そしてこれから先も、永遠に……。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?