モルドーラン王国、第一王子――マルス・モルドーラン。
オレは、この世に生を受けたときから「王」としての器を手にしていた。
――『王制』。
世界でも類を見ない珍しいスキルの所持者だ。
誰もがオレに平伏し、跪く。のちに一国の王となる身として、これ以上にない相応しいスキルと言えるだろう。
このオレが望めば、それが何であろうと手に入れることができる。
故に、「アレ」も手に入れることにした。
アレとは、愚弟エリックの婚約者のことだ。
オレに相応しい女など、世界を探し回っても見つからないかもしれない。
オレ自身、アレへの興味は微塵も持っていなかったが、これまでに愚弟の尻拭いを何度もしてきた。
その愚弟が、やたらと自慢してくるのが鼻につく。
だから一目見て、アレを直接貶してやるつもりだったのだ。
……だが、それは無理な話だった。
アレを見たとき……いや、彼女を目にしたとき、オレは……恋に落ちた。
手に入れたい。是が非でも。
彼女は愚弟には勿体ない。『王制』スキル所持者のオレにこそ相応しい。
ある日、王立図書館に彼女がいると知り、足を運んだ。
どうやら彼女はスキルに興味を持っているらしく、度々調べに通っているらしい。
それはつまり、スキル所持者のオレのことを深く知りたい……そう理解した。
オレも、彼女にオレのことを知って欲しい。
いずれこの国の王となるオレのことを、オレの口から直接教えてやりたい。
そう、そうだ。
これが、これこそが、人を好きになるということなのだ。
オレの隣に並び立つに相応しいのは、この世界で彼女だけだ。
故に、オレはエリックに圧力をかけた。
彼女との婚約を破棄し、オレのものとするために。
そしてすぐに、オレは彼女を婚約者として迎え入れた。
このオレは、『王制』を持つ王の器だ。
オレの手に掴めないものは存在しない。
今までも、そしてこれから先も、永遠に……。