おはようと挨拶しても、どこか笑顔がぎこちない。
どうしたのと心配されても、自然に言葉を返すことができない。
あれ以来、わたしはずっと心に仮面を付けて生きてきた。
でも、このままではいけない。
両親にはもちろんのこと、エリック様にも迷惑がかかってしまう。
だけど、生まれ持ったスキルはどうすることもできない。
誰にも相談できずに一人で悩み続ける毎日だった。
そんなある日のこと。
魔人討伐を果たした冒険者一行が、王都に凱旋するとの噂を耳にした。
お茶会の途中でエリック様に訊ねてみると、興味を持っていると思われたらしい。冒険者一行の凱旋パーティーに、わたしも参加させてもらえることになった。
その日の夕食時、わたしは王城に足を運び、エリック様にエスコートされながら凱旋パーティーを楽しく過ごした。
誰も彼もがわたしに優しくしてくれるのは、もう仕方のないことだ。割り切るしかない。
いっそのこと、『溺愛』を思う存分利用して生きてみようかとさえ考えてみた。
とはいえ、そんな度胸はわたしにはない。
だから大人しく『溺愛』を受け入れて流されるままに生きていくことにした。
そうやって、わたしが自分の人生を諦めたときのことだった。
冒険者一行との挨拶を交わす瞬間が訪れた。
彼らはエリック様と握手を交わし、続けてわたしとも目を合わせて手を握っていく。
だけどそのとき、一人だけわたしに興味を示そうとしない人がいた。
下を向き、口を閉ざす少年……いや、青年だ。
――ロック・クオール。彼の名だ。
エリック様から聞いた話によると、彼はわたしよりも三つ上の十六歳で、王国唯一の五つ星冒険者とのことだ。意味はよく分からなかったけど、とにかく強いことだけは伝わった。
現に、今回の魔人討伐に関しても、ほとんど彼一人で追い詰め倒したらしい。
だからだろうか、パーティー会場にいる人たちからは「英雄」と持て囃されていた。
その彼が、わたしと目を合わせても一切興味を抱かなかった。
ひょっとして、『溺愛』の効果がない?
頭を過ぎったのはそんなことだったけど、すぐに思い直す。
あの占師は言っていた。能動型の『溺愛』を防ぐ術はない、と。
だから目が合ったのもわたしの気のせいに違いない。
それから暫くの間、わたしはエリック様の話し相手を務めて過ごした。