「……はぁ」
メロール邸へと戻ったわたしは、自室で深いため息を吐く。
今日、何度目のため息だろうか。数えるのも面倒くさくなる。
エリック・モルドーラン。
この国の第二王子であり、第一王子のマルス様に次ぐ王位継承権を持っている。
一方、わたしはというと、何の変哲もない普通の男爵令嬢だ。
名前の前に「貧乏な」を付けると、より正確になるかもしれない。
常識的に考えれば、男爵令嬢のわたしがエリック様に見初められることなど、到底あり得ないことだ。
でも、残念ながらそれが可能となってしまうのが『溺愛』の怖いところだった。
「あの日……パーティーなんかに行かなければよかったわ」
ため息と共に思い出す。
それは、エリック様と初めて顔を合わせた日のこと。
お父様とお母様の知り合いの知り合いのそのまた知り合いの子爵様から、王家主催のお茶会に参加しないかと誘われた。
このお誘い自体、わたしの『溺愛』が効果を発揮しているのだけど、断る理由もなかったし、何より両親が参加したそうな顔をしていたので……受けることにした。
そしてそのお茶会で、わたしはエリック様と初めて出会い、その場で求婚された。
両親はもちろんのこと、その場に居合わせた国王陛下と女王陛下も乗り気になり、幼いながらに断れる雰囲気ではないことを察したわたしは、エリック様の求婚を受け、婚約を結ぶことになった。
それからというもの、エリック様は毎日のようにメロール邸に足繁く通いつめ、わたしの顔を見に来てくれた。
だけど、全然嬉しくない。
これはエリック様の意思によるものではないことを知っているから。
故に、更に深く思い出す。
もっと幼い頃の記憶を……。