「これ、もしかして全部わたしが倒したんですか……?」
「うん。ノアの【アイシクル】のおかげだね」
ゴブリンが、合計十二体。その全てが【アイシクル】によって息の根を止めている。
実際にそれを自分の瞳に映した今でも、信じられない。それがノアの感想だった。
相手がゴブリン一体だけであれば、魔力を無駄に使う必要も無い。
今回のように複数体の場合は、広範囲に影響を及ぼすスキルを使用すればいい。
故に、単体を対象とする【アイシクル】で無駄に魔力を消費し、広範囲スキルの真似事をする行為は、無駄と言わざるを得ない。
勿論、広範囲スキルを持たない者からしてみれば、これも一つの手ではあるのだが、使用可能な魔力が十マナに増えたノアならばともかく、他の冒険者は無駄撃ちするほどの余裕がない。
「とりあえず、これでクエストクリアかな?」
「あっ、はい……! そうですね、ゴブリンを倒した証明に、体の中にある魔石を取り出して、ギルドに持ち帰りましょう」
「うわっ、そんなことしないとダメなんだ? 冒険者って結構大変だなあ……」
「ふふ……そうですね。でもこうしないと、倒したという証明が出来ませんから」
全ての魔物の体内には、魔石が存在する。
魔石は、その魔物の心臓のようなものであり、魔道具などの材料として利用することが出来る。
これを魔物の体内から取り出し、ギルドに持ち帰ることで、クエストクリアとなる。
ボドとエリーザの荷物持ちとして魔物狩りに同行していた際、魔石の回収作業もノアの仕事だった。故に慣れている。
「……ふう、これで全部取れた?」
「合計十二個……ちゃんとあります。大丈夫です」
「クエストクリアするだけなら、一個でもよかったんだけどなあ」
「ダメですよ、目の前に取れる魔石があるなら、取りこぼしが無いように回収しましょう」
「ん、分かったよ」
クエストとは関係のない魔石でも、魔石を専門に取り扱うお店やギルドで換金することが可能だ。これを交換することで、冒険者は日銭を稼ぐので、獲れるものはしっかりと獲っておかなければならない。
特に節約生活を余儀なくされていたノアにとっては、貴重な収入源となる。目の前にある魔石を見て見ぬ振りするなど、もってのほかだ。
「魔石も回収したことだし、それじゃあ一旦ギルドに戻ろうか」
「はい!」
合計十二体のゴブリンの魔石を革袋に詰め込み、【アイシクル】で作られた氷の道を引き返す。
そのまま二人は、森林地帯を抜け出て、王都へと戻るのであった。