「明らかに人とは異なる動き方をするものが、十二個……」
「それってつまり、ゴブリンが十二体も……?」
「多分、そうなる」
十二体は予想外だ。
ゴブリンは動きが比較的早く、がむしゃらに攻撃を仕掛けてくることが多い。
上位種が居なければ統制を執ることはほぼほぼないのだが、だからこそ想定外の動きをしてくるので厄介といえる。
十二体のゴブリンが一斉に攻撃を仕掛けてきた場合、さすがに二人では対処することが出来ないだろう。
「場所は遠いんでしょうか?」
「ここから歩いて、二分ぐらいってところかな」
「それなら、まだ匂いで気づかれることもないでしょうし、今のうちに引き返しましょう」
「引き返す? 随分弱気だけど、勝てないと思ってる?」
「当然です。だって、相手は十二体ですよ? わたしたちは二人パーティーなんですから、一人で六体を相手にするのは危険すぎます」
ここは引いて、一体だけで彷徨う個体を見つけるべきだ。
だが、ロイルは首を横に振る。
「ノアの攻撃魔法があればさ、問題なく対処可能だと思うけど?」
「魔法を使えるようになったといっても、詠唱には時間が掛かります。それに外すこともあると思います」
「攻撃魔法一回につき、一体しか倒せないわけじゃないよね」
「そ、それはそうですけど、そんな上手くいくわけが……」
「物は試しに撃ってみればいいんだよ。そうだなあ……例えばここから【アイシクル】を真っ直ぐ撃ってみるとかさ」
「まだ姿も見えてないんですよ? そんな無駄撃ちは――」
「僕を信じて」
「ッ」
信じて、とロイルに言われる。
たったそれだけのことで、ノアは心が揺れた。
「……一回だけです。これが終わったら、すぐに引き返しますからね?」
「引き返すか否かは、撃ってからもう一度考えてよ」
「もうっ」
ロイルは、ノアの忠告を受け取った。その上で、【アイシクル】を撃てと言う。
であれば、撃つしかない。
「……いきます」
魔力ゼロの身ながら、ノアは過去に幾度となく呪文を唱えたことがあった。そしてその度に失敗し、落胆していた。
けれども今、ノアの魔力はゼロから十マナへと増えている。
体全体が、ざわつくのを感じる。
いつもよりも念入りに詠唱し、眠りから覚めた魔力をしっかりと込めていく。そして、
「――【アイシクル】!!」
詠唱を終えたノアは、ロイルが指さす方角に向け、ブレることなく真っ直ぐに【アイシクル】を解き放つ。
「――えっ」
と同時に、視界に映るもの全てが氷漬けとなる。
ノアの【アイシクル】は、森の中に氷の道を作り上げてしまった。
「こ、これは一体……? わたしが知ってる【アイシクル】と、威力が全く違います……!!」
「そりゃそうだよ。だって今、ノアは十マナ全て使ったんだから」
「十マナ……!? それって、まさかわたしが【アイシクル】に使ったマナですか?」
氷柱魔法の【アイシクル】を発動する為に必要な魔力は五マナだ。しかしこれは、あくまでも必要最低限の魔力を指している。
五マナ以上、つまりは十マナを一度に込めることも不可能ではない。
魔力ゼロの日々が続いていたノアにとって、使用する魔力量を意識することはまだまだ難しく、思い切って【アイシクル】を放った結果、十マナを注ぎ込んでしまったということだ。
「さあ、滑らないように気を付けて」
ロイルが、手を差し出す。氷の道を進むつもりなのだろう。
白く染まったロイルの目によると、この道の先には十二体のゴブリンがいたはずだ。
「は、はい……」
滑って転ばないようにギュッと手を握ったまま、ノアはロイルと共に氷の道の先へと進む。そして見た。
「う、うそ……!!」
ロイルの【魔眼】が示す通り、そこには十二体のゴブリンがいた。
そしてその全てが、ノアが撃った【アイシクル】の餌食となり、氷漬けとなっていた。