「わたしが持っているスキルは、攻撃魔法が【ファイヤーボール】と【アイシクル】、回復魔法が【ヒール】になります」
「攻撃魔法が二つに、回復魔法が一つか。バランスが取れてていいね」
回復魔法は冒険の要だ。
これが無ければ、魔物と戦う度に、回復道具の類を用意しなければならない。
それらは単純に荷物となり、場所を取ってしまう。それに、いざ使おうとした時に手間取る可能性も少なくない。
その点、回復魔法の【ヒール】は、唱えて発動さえすれば傷を癒してくれるので、間違いがない。魔力量によって唱えられる回数に制限はかかるものの、こちらの方がよほど信頼できると言えるだろう。
また、【ファイヤーボール】と【アイシクル】の二つを使えるのも心強い。
前者は火属性の火球魔法であり、後者は水属性の氷柱魔法だ。対称的な属性である為、魔物の弱点を突きやすいという利点がある。
「魔力量がゼロだったので、まだ一度も使ったことがないんですけどね……」
「だけど、今のノアは十マナある。だから攻撃魔法で魔物と戦ったり、回復魔法で補助することが出来るね」
「はい……わたしが戦闘に参加出来るなんんて、夢みたいです……!」
スキルを発動するには、魔力を消費しなければならない。
火球魔法の【ファイヤーボール】と氷柱魔法の【アイシクル】は五マナで、回復魔法の【ヒール】が十マナだ。
魔力量がゼロから十マナに増えた今、単純に、攻撃魔法だけでも二回、回復魔法は一回、使用可能だ。一気に戦力が強化された感じがして、ノアは嬉しくなる。
「念の為、ノアは魔力ポーションを幾つか持っておいた方がいいかな。それがあればクエスト中に魔力が無くなっても何とかなるだろうし」
「え、でも魔力ポーションは値が張りますよ?」
魔力回復用のポーションは高級品だが、長期戦において必要不可欠だ。
スキルを多用する冒険者としては、もしもの時の切り札として、非常に心強い存在となる。
「お金のことなら心配ないよ。ほら」
腰に結んだ革袋を外したロイルは、中から硬貨を数枚掴み取る。
手のひらを広げてみせると、そこには金貨があった。
「きっ、金貨……それも五枚も!? こんな大金、どうして……」
「元王族だから、これぐらいはね」
「え……ロイルって、王族だったんですか……!?」
「うん。元だけど」
ロイルは、魔力ポーションを幾つ買っても困らないほどの大金を所持していた。それは元王族であることが関係している。
王族や貴族の身分を与えられた者が、冒険者となるのは非常に稀だ。
剣や魔法に頼らずとも地位や名誉は保証されており、わざわざ危ない橋を渡る必要はない。己の腕が立たずとも、お金で雇えばいいだけの話だからだ。
故に、冒険者になる王族や貴族とは、落ちぶれた者か、その地位をはく奪された者など、相応の理由を持った者に他ならない。
それが嘘か真か定かではないが、ロイルは元王族と言っていた。
過去に何があったのかを詮索しては、ロイルの気分を害するかもしれない。聞かれたくないこともあるだろう。
ノアは、パーティーの仲間の事情を知りたいとは思いつつも、これ以上は深掘りしないことを決めた。