わたしとですか?
と言いたげな表情で、ノアがロイルの顔を見る。
「さっきの……見てましたよね?」
「うん、全部見てた」
「だ、だったらその……わたしがただの荷物持ちで役に立たないことも……」
「荷物持ち? まさか、僕はきみを戦力として勧誘してるんだけどな」
「わたしが、戦力……? で、でもっ、半年経っても魔力はゼロのままですし、全然成長出来ないわたしよりも、もっと他に強い方は沢山います!」
既にノアの心は折れかけている。荷物持ちすらも拒否されたのだから当然だ。しかし、
「きみより強い人なんていないね。断言するよ」
「そ、そんな噓を吐かれても――」
「僕はね、きみのことが欲しいんだ」
「――ッ!?」
きみのことが欲しい。そんな台詞を面と向かって言われたのは、これが初めてだ。
ロイルはノアの手を握る。そしてもう一度、
「だからさ、僕とパーティーを組んでよ」
と言った。
「……ほっ、本当にわたし、お役に立てないかもしれませんよ? 魔力ゼロだからスキルは使えませんし、それでも、後悔しません……か?」
「後悔するのは、きみをクビにした彼等の方だ」
そう言って、ロイルは視線を動かす。その先にあるのは、何度も転んでは怒りをぶちまけ続けるボドの姿だ。クビ宣告を受けて涙を流していたノアは、ボドに何が起きているのか知る由もない。
「わたしを……ほしい、……かぁ」
ノアは一人だ。ボドとエリーザは元パーティーメンバーであり、仲間ではない。
そして目の前には、自分のことを戦力として欲しがる青年が一人。
急すぎて理解が追いつかない点もあるが、構うことはない。魔力ゼロの自分をほしいと言ってくれたのだ。
だからノアは、心を決めることにした。
「わ、わたしでよかったら、その……お、お願いしますっ!」
「ありがとう。これで今日から僕たちは仲間だね」
仲間と言われて、ノアは胸が高鳴る。
だがここで、一つ気づく。そういえばまだ知らないことがあった、と声を出す。
「あの、お名前って……」
「ロイル。それが僕の名前だよ」
「ロイルさん……ですね」
「同じパーティーの仲間なんだから、ロイルって呼び捨てでいいよ」
「あっ、はい! でしたらわたしのことも……」
「ノア」
ふいに、呼び捨てにされる。
緊張から瞬きを何度か繰り返し、けれどもノアは頷いた。
「ろ、ロイル……」
「いいね。もう一回言って?」
「ッ、無理です! やっぱり呼び捨ては無理ッ!」
「ええっ? 一度言えたんだから大丈夫だってば。ね、ノア?」
「――ッ、うううぅ!」
いつからか、ノアの目から涙が消えていた。そして代わりに、白い頬が朱色に染まり始めていることに、ノアはまだ気付いていなかった。