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【9話】無様でも構わないからしがみついてやると思いましたが無理でした

 手持ちの武器は、小型ナイフが一つ。

 覚えたスキルは魔力がゼロだから使えない。


 魔物狩りしなくとも、王都内でこなせるクエストは存在する。けれどもそれだけで暮らしていくのは難しい。ギルドへの貢献度を上げることは可能だが、報酬が増えるわけでもないからだ。


 冒険者として生きていくことを諦め、別の道を探した方がいい。

 誰に聞いても、そう答えるだろう。


「……ま、待って」


 だが、たとえ無様に見えたとしても、それでも諦めることが出来ない。

 モルドアと交わした婚約を破棄され、アルゴール家を追い出された時、やっと夢を叶えられると喜んだ気持ちは本物だった。


「待ってください……!」


 その気持ちに嘘をつき、ここで諦めるぐらいなら、どんなに無様な姿を晒そうとも構わない。必死にしがみついてやる。

 ノアは立ち上がり、二人の背中を追い掛け、声を掛けた。


「ボド! エリーザ! さ、さっき言ったことは取り消します! だからわたしをクビにしないでください!」


 荷物持ちでも何でもしてやる。

 魔力ゼロだろうとスキルを覚えることは出来るのだ。いつかその時が来るまで、必死に節約しながら生き長らえよう。そう考えた。しかし、


「うるせえんだよ! 出来損ないのクソゴミが!」


 近づくノアを手で払い、ボドは苛々を隠さずに言い捨てる。


「出来損ないのお前を同行させてたのはな、荷物持ちが必要だったからだ! お前もそれで納得したよな? それを今さっき拒否したのは、どこのどいつだ? お前だろ! この出来損ないが!」


 ここがギルド内であり、人の目があることを知った上で、ノアを怒鳴りつける。まるで互いの立場を見せつけるように。


「ごっ、ごめんなさい……! これからは言ったとおりにします! それに荷物持ちも頑張ります! だ、だからわたしを……クビにしないでください!」

「クビにしないでですって? ふふふ、そんな甘ちゃんだからクビになったのよ。貴女自身がお荷物だってことに、いい加減気づいたらどう?」


 ノアの肩に手を置き、エリーザは耳元で話しかける。


「別にね、貴女の代わりは幾らでもいるの。だからもう、私たちにおんぶにだっこで冒険者を気取るのは止めてくれない?」


 ――冒険者気取り。

 その言葉が、ノアの胸に突き刺さる。


「そういうことだから、今までご苦労様。うふふふふ」


 ノアを嗤い、エリーザが最後通告する。

 もはや、荷物を持つことも許されないノアは、その場にへたり込む。一度は止まったはずの涙が、目元を濡らしていく。


「おい、エリーザ。今日はクエストの気分じゃねえ。宿に戻って一発やるぞ」

「はぁい、仕方ない子ね」


 ボドとエリーザの二人は、ノアを置いてギルドの外へと向かう。だが、


「――いでっ」


 なにもない場所で、ボドが派手に転んだ。

 その隙に、ノアの許へと歩み寄る者が一人。そして優しく語りかける。


「こんにちは、ノアさん」


 その男の名は、ロイル。

 ノアは、この男との出会いによって、己の運命を大きく変えることになる。

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