手持ちの武器は、小型ナイフが一つ。
覚えたスキルは魔力がゼロだから使えない。
魔物狩りしなくとも、王都内でこなせるクエストは存在する。けれどもそれだけで暮らしていくのは難しい。ギルドへの貢献度を上げることは可能だが、報酬が増えるわけでもないからだ。
冒険者として生きていくことを諦め、別の道を探した方がいい。
誰に聞いても、そう答えるだろう。
「……ま、待って」
だが、たとえ無様に見えたとしても、それでも諦めることが出来ない。
モルドアと交わした婚約を破棄され、アルゴール家を追い出された時、やっと夢を叶えられると喜んだ気持ちは本物だった。
「待ってください……!」
その気持ちに嘘をつき、ここで諦めるぐらいなら、どんなに無様な姿を晒そうとも構わない。必死にしがみついてやる。
ノアは立ち上がり、二人の背中を追い掛け、声を掛けた。
「ボド! エリーザ! さ、さっき言ったことは取り消します! だからわたしをクビにしないでください!」
荷物持ちでも何でもしてやる。
魔力ゼロだろうとスキルを覚えることは出来るのだ。いつかその時が来るまで、必死に節約しながら生き長らえよう。そう考えた。しかし、
「うるせえんだよ! 出来損ないのクソゴミが!」
近づくノアを手で払い、ボドは苛々を隠さずに言い捨てる。
「出来損ないのお前を同行させてたのはな、荷物持ちが必要だったからだ! お前もそれで納得したよな? それを今さっき拒否したのは、どこのどいつだ? お前だろ! この出来損ないが!」
ここがギルド内であり、人の目があることを知った上で、ノアを怒鳴りつける。まるで互いの立場を見せつけるように。
「ごっ、ごめんなさい……! これからは言ったとおりにします! それに荷物持ちも頑張ります! だ、だからわたしを……クビにしないでください!」
「クビにしないでですって? ふふふ、そんな甘ちゃんだからクビになったのよ。貴女自身がお荷物だってことに、いい加減気づいたらどう?」
ノアの肩に手を置き、エリーザは耳元で話しかける。
「別にね、貴女の代わりは幾らでもいるの。だからもう、私たちにおんぶにだっこで冒険者を気取るのは止めてくれない?」
――冒険者気取り。
その言葉が、ノアの胸に突き刺さる。
「そういうことだから、今までご苦労様。うふふふふ」
ノアを嗤い、エリーザが最後通告する。
もはや、荷物を持つことも許されないノアは、その場にへたり込む。一度は止まったはずの涙が、目元を濡らしていく。
「おい、エリーザ。今日はクエストの気分じゃねえ。宿に戻って一発やるぞ」
「はぁい、仕方ない子ね」
ボドとエリーザの二人は、ノアを置いてギルドの外へと向かう。だが、
「――いでっ」
なにもない場所で、ボドが派手に転んだ。
その隙に、ノアの許へと歩み寄る者が一人。そして優しく語りかける。
「こんにちは、ノアさん」
その男の名は、ロイル。
ノアは、この男との出会いによって、己の運命を大きく変えることになる。