ボドとエリーザのパーティーに荷物持ちとして加わってから、三ヶ月が過ぎた。
その間、ノアがしたことといえば、死んだ魔物の体内から魔石を回収する作業がほとんどで、魔物との戦闘には参加さえてもらえなかった。
手を出そうものならボドに怒鳴られてしまうし、そもそもノアは魔石回収用の小型ナイフの他に武器を携帯していなかった。それだけではろくに戦うことも出来ないだろう。
クエスト達成時の報酬の分配についても、ノアに発言権はない。その日のボドの機嫌に左右される。
気紛れで色を付けてもらえることもあったが、それでも宿泊代と食事代で足が出る程度だ。冒険者として暮らしていくなど、夢のまた夢の状態が続いている。
その結果、元々持っていたお金は見る見るうちに減っていき、ノアは頭を悩ませることが多くなっていた。
「お腹空いたなぁ……」
冷えて硬くなったパンを口に、ノアは溜息をつく。
現在、ノアは冒険者ギルドに併設された宿泊所で寝泊まりしている。
眠ることさえ出来れば構わないといった簡素な造りになっているが、その分宿泊代が安めに設定されており、贅沢を出来ないノアにとってはありがたかった。
だが勿論、一人部屋ではない。他の宿泊者……冒険者たちの目もある。己の持ち物から目を離したら、数秒後には盗られている、なんて話もちらほらだ。
故に、冒険者になって以降、ノアは気の休まる暇がなかった。
「……このままじゃダメだよね」
疲れは溜まっている。ボドの荷物は特に重く、運ぶだけでも一苦労だ。
けれども泣き言を口にしても、何も変わらない。変化を求めるのであれば、荷物持ち以外のこともしなければならない。
一歩前に進むために、現状を打破するために、何か行動に移す必要があるだろう。
「明日、一人で……」
クエストを受けてみよう。
集合時間は昼過ぎなので、午前のうちに簡単なクエストに挑戦するのだ。
「……ッ」
一度決意すると、居ても立っても居られなくなる。
ノアはベッドから起き上がり、急ぎ足でクエスト掲示板の前へと向かった。
「何かないかな……」
時刻は二十二時を回っており、ギルドの受付は閉まっていた。掲示板を確認することは出来るが、新規のクエストが貼られるのは朝一と正午の二回だ。この時間に残っているものは、誰も手に取らないような不人気クエストばかりである。
だが、それでも構わない。
ノアはクエスト掲示板に目を通し、魔力ゼロでも達成出来そうなものを探す。
「ギルドの雑草抜き……」
それは魔物狩りではない、ただの雑用クエストだ。
とはいえ、達成すれば報酬を受け取ることが出来る。
「……うん。やってみよう」
雑草抜きのクエスト依頼用紙を手に取り、宿泊所へと戻る。
明日は朝から忙しくなりそうだが、ノアの心は明るい。何かが変わる気がしているのだろう。
そして翌朝……。
ギルドの受付でクエストの受注を終え、早速とばかりに、ノアはギルドの外に生えた雑草を抜き始める。だが、
「……おいこら、何してんだ荷物持ち」
そこに運悪く鉢合わせたのは、パーティーメンバーのボドであった。