「いえ、冗談ではなくてですね、生まれた時からずっと魔力量が増えなくて……だから」
「ってことはお前、スキル持ってんのに発動出来ねえのか?」
「っ、……はい」
大きな溜息を吐くボドは、横に座るエリーザを見た。
「……おい」
「なによ」
「こいつさ、どうするよ?」
「知らないわよ。仲間にしたのは貴方でしょう、ボド」
「チッ」
舌打ちし、ボドは足をゆする。
「じゃあ、この話は無しだ。俺達はお前を仲間にしなかった。それでいいな?」
「えっ、そんな……! ちょっと待ってください、確かにわたしは魔力がありませんけど、戦うことぐらいは……」
「スキルも使えねえやつが戦う? 何馬鹿なこと言ってんだ。身体強化や付与スキルも使えねえってことは、生身の人間と同じってことだぞ? んな状態で俺達についてくるつもりかよ? 大人しく諦めんだな」
ボドの言い分は正しい。
魔力ゼロのノアを連れ立って魔物と対峙した時、邪魔にしかならないだろう。だが、
「――いや、ちょっと待てよ? 魔力がゼロでも、荷物持ちぐらいにはなるんじゃねえか?」
「荷物持ちねえ……それなら有りなんじゃない」
ボドの思い付きに、エリーザが同意する。
「荷物持ち……ですか? でもあの、わたしは冒険者になったから、魔物を倒したり……」
「うっせんだよ、出来損ないが」
「っ」
出来損ない、と言われる。その言葉がノアの心を蝕む。
「魔力ゼロのゴミが冒険者業をやりてえなら、荷物持ちぐらいしかねえだろ。ってか、ゴミに役目を与えてやろうって言ってんだから感謝しろよな」
「そうよ? 貴女一人で魔物狩りにでも行ったら、すぐに死んでしまうと思うし、良い案だと思うのよね」
「ってことだからよ、これからお前は荷物持ちだ。いいな?」
そう言って、ボドは自分の持ち物をノアの前へと置く。
続いてエリーザも。
「私のもの、落として壊したら弁償してもらうから。運ぶ時は十分気を付けるのね」
二人の中では既にノアが荷物持ちとして決定したのだろう。
有無を言わさぬ口調と態度に、ノアは落胆する。
しかし、冒険者としての経験が無いのは事実だ。
一人で魔物狩りをしたとして、失敗しないという保証はない。たとえ荷物持ちとしてでも、仲間が一緒にいた方が生き残る確率は高くなるし、その場で見て経験を積むことも不可能ではない。
現に、ノアは私設兵と共に魔物狩りをしたことで、スキルを二つ覚えている。
「……分かりました。これからよろしくお願いします」
首を垂れ、ボドとエリーザのパーティーに加わることを決意する。
顔を上げると、二人は既に談話室の外に出ようとしていた。
慌てて二人分の荷物を持ち、よろけながらもその背についていく。
「あ、あの! わたしの名前は――」
「ああ? 荷物持ちに名前なんて必要ねえんだよ。分かったらさっさとついて来い」
「っ、……はい!」
名前も聞かれず、荷物持ちと呼ばれ、それでもノアは二人に従う。
それが地獄の始まりであった。