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「インターネットの力って偉大だな」

 自分が伝えたかったことを全て吐き出したきり、シュートはしばらく沈黙する。視聴者たちの反応をうかがっている。ここからどうなるかは視聴者たちの反応次第である。シュートがやろうとしていることは結局は私怨を晴らすべくの復讐。別の誰かがシュートと同じ虐めに遭っていようと正直どうでもいいと思っている。

 シュートはただ、天成中学校とそこに今在籍しているかつ恨みがある人たち全てが、社会的に潰れてくれればそれで良い…としか考えていない。他の誰の為でもない、シュート自身の為である。


 (さぁ……)


 シュートは生配信のコメント欄を注目し続ける。


 (火をつけろ)


 狙った反応を待ち続ける。


 (燃え盛れ……!)


 (――――――)


 念じ続けていると脳内であるスキルの気付きが生じて、それを無意識に発動していた。けれどシュートは配信コメントの動きに没頭しておりそれどころではなかった。


 そして、一つのコメントに注目する。


 『SHOTさんの気持ち、痛いほどに分かります。僕も天成中学校の卒業生で、学校にいた時ずっと、虐めを受けてました』


 それは天成中学校の卒業生…それもシュートと同じ虐めを受けていた人からの投げ銭コメントだった。


 『私も……。学校で虐められてて、その時の先生に言っても、その先生は弱いお前が悪い…って突き放してきました……』

 『あの学校、本当に虐め問題を揉み消してたんです。俺、悔しい気持ちのまま退学したんだ……!』


 続いて同じような投げ銭コメントが一つ二つと流れてくる。


 『僕はその学校の生徒じゃないけど、今も酷い虐めを受けてます…。誰も、僕を助けようとはせず、それどころか指差して笑うばかりで……』

 『同じく。虐めに耐え切れなくなって不登校なうです。教師たちは面倒だからって虐め問題に全く親身になってくれない。あいつらは信用できない生き物だ』


 そして再び、天成中学校への不満・非難するコメントが流れてくる。


 『知り合いに天成中学校の卒業生がいるんだけど、その人が言うにはあの学校、成績悪い人と運動出来ない人をすごく見下すんだって。で、それを理由に虐めをしていたんだって。成績悪くて運動出来ない人達はみんな一生懸命に努力してて、悪いこと何もしてなかったのに、虐められてたんだって』

 『俺も天成中学校の卒業生なんだけど、あの学校の先生ども、成績優秀な生徒のことしか見てなかったな。あいつらばかり優遇して、俺みたいな平凡な生徒たちにはまるで虫けら扱い。明らかに生徒差別してたわ』

 『私の友達に虐めに遭ってた子がいて、私勇気出して先生や校長先生に虐めを通報したんだけど……そしたら “そんな負け組のことなんか放っておいて、勉強や部活に励め”って見捨てて……。本当に、酷い学校だったな……』


 最初のコメントが起爆剤となり、同じ中学校の卒業生、中には在校生らしき人物によるコメント…天成中学校の本性を晒すコメントが流れてくる。


 (きた、きたきたきたぁ!)


 シュートはそれらのコメントを声にして読み上げながら、内心テンションMAXで咆えていた。シュートの狙いの一つに、彼と同じ境遇に遭った視聴者たちに虐めや天成中学校の悪事を暴露してもらうということがあった。その目論見も見事に成功した。

 そして、シュートによる暴露、彼と同じ被害に遭っていた視聴者たちのコメントを目にした視聴者たちは―――


 『なんて酷い学校なんだ!』『そこの学校の教師たち完全に生徒を差別してんじゃねーか!』『うっわ、名門校で名高い学校が、本当はそんな最低なところだったなんて……』『さっきの校長たちの録音ボイスも、本当としか思えなくなったな!』『俺、来年は天成中学校に受験しようって思ってたんだけど、絶対止めとこう』『最低な学校だ!』『最悪な学校だ!』『あの学校の教師は人間のクズしかいないのかよ!』


 天成中学校を叩くコメントを次々と流した。効果は絶大だった。シュートと天成中学校の在校生・OB・OGたちのコメントを信じた視聴者たちは、怒りを露にしていた。


 「僕や在校生・卒業生の方たちのことでこんなにもコメントしてくれて……ありがとうございます」


 『よく打ち明けてくれた!』『勇気出してくれてありがとう!』『本当に許せないよね!』


 視聴者たちからシュートを励ますコメントも流れてくる。


 「では、そろそろ今日の生配信を終えようかと思います。僕ができることはこうして真実を話すことしかありません。少しでも多くの人達に、名門私立校と言われている天成中学校が本当はどういう学校なのかを知ってほしいと思って、この場を設けさせてもらいました。

 最後に……虐めをする奴は絶対に許してはいけない。そして、虐めがあるのを知っててそれを隠蔽する教師たちも絶対に許されるべきではない!

 彼らに、相応の罰を!!」


 そう叫んでからすべての生配信を終了させる。配信が終わってもなおコメントの嵐は続いていた。しばらくしてシュートの携帯電話から、トゥイッターの通知が届く。シュートがユアチューバーとして開設したアカウントにDMがきていた。


 『突然失礼いたします。夕日新聞記者の加山と申します。先程のユアツベの生配信をを視聴させてもらいました。SHOTさんがお話しした私立天成中学校の真実について、可能であれば取材をさせて頂きたいと思っているのですが、後日からでも良いのでやり取りすることは出来ますでしょうか?』


 DMを送ってきた記者を名乗るアカウントのプロフィールを確認すると、そのネームの語尾にトゥイッターの公式マークがついてた。これは本物で間違いないだろうと確信したシュートは、嗜虐的な笑みを浮かべながら取材に応じると返信した。


 「これも狙い通り、新聞かマスコミの人間が釣れた!こいつらにあのクソ私立中学校の連中の悪事を全て話して、全国に拡散させてやる…!

 さぁここからもっと、面白いことになるぞぉ……!」


 翌日、シュートのもとに多くの新聞記者やマスコミから取材の要求がきて、シュートはそれら全てに快く応じて、彼らに天成中学校の悪い真実を全て(少し盛ったりもして)暴露した。

 さらにシュートの生配信を視聴していた有名芸能人や有名ユアチューバーが、その生配信についてのコメントをSNSに発信した。コメントはどれも天成中学校を批判するものであり、それらは瞬く間に数万リツイートされて、国内のトレンドも連日一位を獲った。


 (インターネットの力って偉大だな。こんなにも拡散されてやがる。天成中学校、あれは全国屈指の名門私立中学校。有名というのは時として恐ろしい爆弾にもなり得る……。高く積み上げたもの程、落ちる時のダメージは尋常じゃない……!)


 新聞記者・マスコミ・SNSによる多数の情報発信・拡散によって次第にテレビのワイドショーにも話題が上がって、さらに日本中に広がっていった。

 全国各地から天成中学校に対する怒りや非難の声が上がり、その学校はたちまち世間から叩かれるようになった。

 現に天成学校に在籍していて、学校の在り方に不満を持っている生徒たち、その学校の卒業生で虐めなど理不尽の被害に遭っていた人たち、さらにはそんな彼らの親たちが主だって天成中学校を叩いている。


 そうした大炎上は、三日以上も続くのだった。

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