シュートは退学から二日後、そんなユアチューバーとしての活動を始めていた。
『やぁ、ハローチューブ!この度ユアチューバーを始めさせていただく、“SHOT”といいます!読み方は“ショット”です!いちおう自分、未成年の学生です!
多くの視聴者にスゲェと言わせるような動画を見せていくので、よろしくお願いします!!』
シュートが何故ユアチューバーを始めたのか。それは「復讐」を達成させるのに必要な手段だからである。
私立中学校を退学させられたシュートはその日から、5チャン掲示板を始めとする各掲示板サイトや、トゥイッターをはじめとするSNSにて、自分が通っていた私立天成中学校が実は最低最悪であるといった内容を書き込んで、世間に知らしめようとしていた。
「青野とか校長とか教頭とか教師ども、ついでに理事長も。あいつらにも中里たちと同じように物理的な復讐をするのも良いと思う。
けどそうすればあいつらは被害者面してすぐ警察とかを使って、俺を逮捕させようとしやがる。ああいう汚い大人どもでも物理的に壊しちまうと、さすがに俺のこの世界での生活に支障がきたすことになる(主に前科がつく)」
「だから今回あいつらには、なるべく俺の手を使わずして、社会的な手段で復讐するとしよう!」
「俺が通っていたクソ学校は今でも、全国で有名な私立中学校として知られている。これを利用してやれば良いんじゃねーか?」
「というわけで、早速インターネットを使うぜ!」
そう判断して早速行動に移ったが、どこの誰かも分からない…否、どこにでもいるような、ただの一少年の告発など、世のほとんどは目や耳を向けてくれなかった。SNSのトレンドに乗ることもなく、掲示板も別の話題で埋もれていった。
「異世界で得た力で強くなったけど、現実の俺は芸能人でも何でもないただの男子中学生だ…。世の中の誰も、俺のことは知らない。知らない人間の言うことなんて誰も聞こうとはしない」
「それなら……俺が有名人になれば、誰もが俺の言葉に気付いてくれるかもしれない、聴いてくれるかもしれない……!」
そこでシュートは、手っ取り早く有名人になる手段を選んだ。テレビに出るような芸能人じゃない素人にでも有名人になれるチャンスが、現代の日本にはいくつか存在する。そのうち一つが、「人気ユアチューバー」になることである。
国内でそこそこ名が知られている「学生ユアチューバー」になることを当面の目標に立てて、シュートは私立天成中学校への復讐を為す手段として、有名人になることを目指し始めるのだった。
最初のうちは顔を隠して活動し始めた。万が一にも私立天成中学校の元クラスメイトの誰かに顔バレされると計画に支障が出る恐れがあるからだ。また撮影場所にも気を遣った。知らない誰かに住所を特定されると面倒なことになりそうと見越して、撮影場所は常に異空間ですることにした。
撮影するにあたってシュートが苦労したことは、道具の調達だった。異空間は広さはあるものの、何一つ物が無い場所なので、道具や壁などの障害物は全てシュート自身が用意しなければならなかった。それらを購入する為の資金は、以前錬成しておいた金塊で補った。
動画撮影に使うカメラも用意したところでいよいよ活動開始である。最初の動画内容は自己紹介だけだった。自分が未成年の学生であることだけを明かして、中学生あるいは高校生の「学生ユアチューバー」であることを浸透させた。
「誰もが興味を惹かれるような内容が当然求められる。国内トップのユアチューバーがやっていたことを今さらやっても注目はあまり期待できないよな。やっぱりここは、誰もやったことがないことをするに限る!」
「それを実現するにはやっぱり、異世界で得たこの力を使うしかないっしょ!」
シュートが届ける動画内容は、どれも異世界で得た力の片鱗を見せるものとなった。その力を利用した異次元のアクション動画を次々と制作していった。
『サンダーボルト!50m走を4秒台で走ってみた』…用意した物は、光電管タイム計測器。不正無しで4秒台を叩き出した。
『スパイダーマン!?逆立ちで壁を上ってみた』…土の魔術で壁を造り、そこに手をついて全身を壁に垂直になるよう逆立ち状態になって、そのまま歩行してみせた。
『世界新記録!?走り幅跳びで砂場を跳び越えてみた』…同じく土魔術で最長約9mの砂場を造り、これも不正無しの素のジャンプで、砂場をも軽々と跳び越えてみせた(記録は推定約10m)。
『キングコング!?素手で岩石を破壊してみた』…金属バットやハンマーでいくら殴ってもビクともしない巨岩(これも土魔術で…以下略)を、シュート自身の拳一つで粉々に破壊してみせた。スキルを使った今のシュートの拳は、凶器よりも硬く、強くて、恐ろしいものとなっている。
『マトリックス超え!?ゼロ距離で改造エアガンの弾を躱してみた』…拳銃と同じ速度の弾が出るように改造したエアガンの銃口を、シュート自身の頭にくっつけたまま発砲、それを紙一重で躱してみせた(改造エアガンとは言ったものの、実際に使用した物は土魔術で作った本物の拳銃である。銃弾は時速約1000km)。
『鳥人間!?何も使わないで空中に浮いたり飛んでみた』…スキル「浮遊」で空中で歩いてみせたり飛んでいる姿を見せた。
シュートが投稿した動画はどれも学生離れどころか、人間の範疇すら超越した身体能力を披露したものだった。動画はユアツベだけではなく、国内最大級の動画サービスである「ニチャニチャ動画」、情報サービスのアプリである「
シュートのアクションを目にしたある者は、「なんて高度なトリック撮影・リアルかと思わせる程のドッキリパフォーマンスだ」と特撮のクォリティーを褒め、
ある者は「これ、CGとか編集とか無しの、ガチパフォーマンスじゃね?」とシュートのパワーやスピードが本物ではと見抜き、
ある者は「是非あの少年に、テレビ番組の次の特番に出てもらいたい!」とシュートとの連絡を試みようとした。
他にも魔術を駆使して、『魔法使い!?手や口から炎や電撃を出してみた』といった「マジカル動画」も大量の視聴数を稼いだ。
結果、動画投稿を始めてから一週間も経たないうちに全国でバズりまくり、ユアツベのチャンネル登録者数は1万、10万と日々うなぎ上り調子で増えていき、ユアツベでの視聴回数も累計100万、1000万と日々倍々に増えていった。
ある時は外に出て、装備一切無しで断崖絶壁を登ってるところや手足を豪速で動かすことで海の上を走ってみせるところ、ジャングルで生息しているゴリラと腕相撲しているところ(ゴリラたちにスキル「威嚇」で脅して従わせた)などの動画も出したりして、日を追うごとにチャンネル登録と視聴回数の伸びが増していった。
シュートが「SHOT」としてユアチューバー活動を始めてから一ヶ月後。
ユアツベのチャンネル登録者数は800万以上、視聴回数はユアツベだけでも累計1億を超えた。さらにはトゥイッターやオンスタでのアカウントフォロワー数が100万人達成するなどの功績を出した。
「よし…!これだけいってれば、国内だけなら“有名学生ユアチューバー”としての箔がついただろ。狙ってた通り、視聴者の年齢層は十代から二十代の若者が圧倒的に多いみたいだし。
ここまでくれば全国の同年代の人間ほとんどが、“SHOT”を知ってる…って風潮になってんだろ」
スマホやパソコンで動画チャンネルの人気推移を確認したシュートは手応えを感じていた。公立中学校への転校の最終手続きを自分でしなければならず、その為の登校が今日であるにも関わらず、シュートは昼間の時間も自宅の自分の部屋で動画のチェックばかりしており、転校の手続きなど完全に放置している。今のシュートにとって学校などどうでもよく思ってしまっている。
「予定通り、一ヶ月くらいでここまでこれた。これだけ世間に周知されてるなら………頃合いだな」
「 じゃあ、明日の夜に、おっぱじめるとしようか 」
満を持したと息巻くシュートは、あの日……虐めを行ったクラスメイトたちへの復讐を実行しようとした時に見せたのと同じ、悪魔の笑みを浮かべた。
「 あのクソ私立中学校全てへの復讐をな……!! 」
その瞬間から、私立天成中学校の崩壊のカウントダウンが始まった―――