「子どもが知ったような口を……!たかだが一般家庭で育ったに過ぎない生徒の虐め一つが原因で、この偉大な学校に傷がついて、世間から汚名を被せられるわけにはいかんのだ!お前を退学させることで丸く収まるというのなら、安いものだ!」
「教頭先生、口が過ぎる。外で誰かが聞いてるやもしれないのだぞ」
「申し訳ございません。しかし校長先生も同じ意見ではありませんか。先日もそのようなことを仰ってましたし」
「まぁ、そうだな。出資金をこれからも得られ続けて、我が校に傷がついて失墜しない為なら、虐めの一つや二つ目を瞑るのはやむなし」
「それに、虐められる側にも問題があるとも言うではないですか。容姿が醜い、空気を全く読まない、周りと違い過ぎることをしている、等…。あとはまぁ、単に弱者であることですかね。弱い者が虐げられる……世の中はそうなるようになっているのですから」
「………は?」
硲と教頭、さらには理事長までもが教育機関に属する者としてあるまじき発言を、シュートの前で行った。シュート一人に聞かれてもさして問題にはならないと、高を括ってのことだった。
「虐められる側が悪い?弱いから虐められる?弱者が虐げられるのは仕方がない……?」
シュートの顔から感情が失った。
(腐ってやがる……。こいつらは本当に脳みそまで腐ってやがる)
ぐい…と硲の胸倉を掴んで宙に上げる。硲は青い顔でシュートの手を掴んだまま足をばたつかせる。他の二人も狼狽に満ちた声を上げる。
(誤解してた……。こいつらは上の権力者に圧力をかけられてるから、仕方なく呑みこんでただけ…と思ってた。
けどそうじゃなかった。こいつらは容認していたんだ。弱い者が虐げられる世の中を。
これが真実なんだ…。このクソどもにはもう自分たちの選択に対する罪悪感とかすら無くなってやがる……それが当然だと思ってやがるんだ…っ)
「こ、校長先生に手を出すなど、貴様、今度は少年院にぶち込ませるぞ!?」
教頭が怯えを含んだ怒声を上げるがシュートは全く気に留めない。理事長は部屋の隅へ逃げて身をかがませている。やがてシュートは硲を教頭の方へ軽く投げ飛ばして解放した。硲と教頭はもつれる形で床に倒れ込んだ。
「虐められるような人間は悪い?つまり俺が悪者?虐めの仕返しをするのも悪いっていうのか?
なら先に虐めをした中里たちは何をやっても許されるってのか!?権力者の息子だから良くて、一般家庭の俺は良くないと!?そんな横暴が通用するわけないだろ!」
「ごほ……っ。そ、それが世の中というものだ!未熟な子どもの君だから、まだ分からないんだ。世の中はいつだって理不尽で、長い物には巻かれるべき…それが世の常だ!」
喉を押さえながら立ち上がって、硲はシュートを忌々しそうに睨みながらそう言い返す。
「すべてをどうにかすることなど出来ない。仮に救いたいと思っても、大きな権力の前には屈服するしかない。それが生きるということだ。君も大人になればいずれ分かることだろう」
「力の無い奴の言い訳だな。下らな過ぎる。しかもお前に至っては自分の学校が地に堕ちるのが怖いだけじゃねーか……っ」
「そ、それよりも!これ以上ここで暴れるというのなら、警察に突き出しますよ!?というより通報しましょう!」
「それはダメです理事長。こんなことで世間に騒ぎが漏れるのは許されない。三ツ木柊人、とにかく君は今日付けで退学とする。速やかに我が校から立ち去りなさい」
金切り声を上げて警察に通報しようとする理事長を硲が宥めて、シュートに退校を促した。
「はん、俺だってこれ以上こんなとこにいたくねーんだよ。出てってやるよ、このクソ学校からも」
そして、シュートは私立天成中学校を退学させられた。たった一人校門を抜けて敷地外に出る。シュートは一度振り向いて、校舎に憎悪の目を向ける。
「はっ、良いぜ……。一権力者に屈した腐った教育者どもが。権力者の子どもにも媚を売って地位や保身を優先……さらには世間からバッシングされたくない、大切な学校が汚されてどん底に堕ちたくない、とかを理由に理不尽な虐めに抗った“正義”の生徒一人を平気で切り捨てやがった、最低最悪な大人ども……!
力がある生徒たちばかりを優先して弱い生徒たちは疎かにするだけの、クソ教育方針……!
どいつもこいつも、俺が虐げられるのを見て見ぬフリをして無かったことにしようとしやがったこんなクソ学校、こっちから願い下げだ!!」
シュートは怒りのあまりに、周囲の地面が陥没する程の圧力を発生させていた。
「お前らは俺をブチ切れさせた。死ぬほど後悔させてやるからな……!」
そしてシュートは新たな復讐目標を確立させた。
「 このクソ私立中学校と、そこに今在籍している奴ら全員、ぶっ潰してやる…!! 」
たった今退学した、私立天成中学校そのものへの復讐を誓うのだった―――